4月に中高生が被害者や加害者になった暴行事件が続いたのを受け、アタル首相は18日、権威と公徳心の復活を掲げる対策を打ち出したが、欧州議会選挙を意識した右寄り政策との批判もある。
パリ郊外ヴィリー=シャティヨンでは4月4日に15歳男子中学生が学校前で暴行を受けて死亡、モンペリエでは13歳女子中学生が「不信心なムスリム」だと非難され、14~15歳の3人から暴力を振るわれて一時重体に、中南部ロマン・シュール・イゼールでは9日、15歳少年が14歳少年と大人のけんかに割って入ってナイフで刺されて死亡、15日には北部グランド・サントで22歳男性が14、15歳の少年にナイフで刺されて死亡、と中高生が関係する死傷事件が相次いだ。こうした事件は社会に衝撃を与え、特に右派や極右は「若者を蝕む野蛮さに対する権威の復活が急務」と政府の対応を促した。
これを受けてアタル首相は18日、権威の復活を強調。対策としては、①中学生は8時から18時まで学校で宿題サポート、文化・スポーツ活動などができるようにし、恵まれない家庭の多い教育優先地区から導入、②問題生徒は全国に5万の余剰収容能力のある寄宿舎で短・長期的に矯正する、③問題のある生徒の監督不行き届きの親に責任感を持たせるために奉仕作業をやってもらう、④ブルヴェ、バカロレアなどの学業修了書の取得において問題行動があれば点数を減らす(点数挽回のためには校内奉仕作業要)、⑤ライシテなど国の原則を尊重する宣誓書を9月から親、子、学校が交わす、⑥未成年は罪が軽くなる制度を見直すなど。
首相は、若者犯罪の増加を強調するとともに、モンペリエの事件と関連して、イスラム過激組織の学校潜入への警戒が必要との見解を示した。だが、学業修了証の審査にあたって素行不良を理由に学科点を下げることは法的な問題があること、宣誓書に署名しないからといって生徒の公立校入学を拒否することはできないことなど適用面の問題もあると専門家は指摘する。個々人を矯正する考えにかたより、社会や制度の問題から目をそらしている、という指摘も。また、今回のアタル氏の策は、すでに200校で試験導入されている放課後対策など既存の対策の焼き直しに過ぎないと教員組合は批判している。
仏紙は昔の権威主義への回帰で解決しようとする首相の右傾化姿勢を批判している。極右躍進が予想される欧州選挙を多分に意識したパフォーマンスに見える。(し)