Sophie Calle A toi de faire, ma mignone
今年はピカソ没後50周年で、さまざまな記念イベントが開催されてきた。その中でも、極めて特異なのが、ピカソ美術館で開催中のソフィ・カル展だ。カルがピカソ美術館を乗っ取ったかのように、全館を自分のプロジェクトで埋め尽くした。この特別展の中でピカソ作品は数点しかなく、大部分のピカソ作品は地下に追いやられている。
ピカソ美術館のたっての希望で実現した展覧会である。副題の「お前の番だ、可愛子ちゃん A toi de faire, ma mignone」は英国の探偵小説作家、ピーター・チェイニーの小説「Your deal, my lovely」(未邦訳)の仏訳題名からとった。仏訳はガリマール社の推理小説業書「セリ・ノワール」から出ている。が、小説は展覧会の内容と全く関係がない。ピカソから「お前の番だ」と突きつけられた挑戦状をカルが引き受けたと想像させるような副題だ。
ほとんどカルの一人舞台なのだが、ピカソの言葉を案内係とし、そこから彼女の作品を展開しており、ちゃんとピカソを抑えている。0階では、新型コロナ禍で閉館中に日光から作品を守るために梱包されたピカソ作品の写真が展示されている。題名を読まなければ、どの作品かわからない。これらの「ピカソの幽霊」は、ピカソを影としてしか感じられない本展を象徴的に表しているようだ。
遠方からピカソを観にきた観光客のために、カルは1人の観客がピカソの1枚の絵と向かい合って座れる小部屋を作った。上階に作ったカルの「事務室」と同じように、彼女の遊び心が感じられる。
大作「ゲルニカ」と関連づけるために、ゲルニカと同サイズの壁面を、自分が所有する他のアーティストの小作品約200点で埋め尽くした。ほとんど友人知人のアーティストと交換でもらったものだそうだ。
圧巻は、上階の、父母と自分の関係をテーマにした展示室だ。両親はもうこの世にいない。子どもがいない彼女は、自分が死んだら自宅のものがどうなるのか心配し、競売所「オテル・ドリュオー」の鑑定人を呼んで、家財を査定してもらった。動物の剥製、食器、母親の古いドレスなど骨董品店にあるようなオブジェが査定後、本展の展示室に並んだ。
「家のものをほとんど全部持ってきたので、自宅は空っぽになり、居場所がない。会期中、ピカソ美術館の空いている小部屋に住もうかと思ったが、それはやめて、事務室として使うことにした」とカルは言うのだが、その発言もプロジェクトの一部なのだろう。どこか嘘っぽい。オブジェももちろん、本当にドリュオーで競売にかけられるわけではない。事務室はカルが常時使っていることになっており(これも嘘っぽい)、「いないとき、御用がある方は下からメモを差し入れてください」とドアに書かれている。
もう一つの圧巻は、実現しなかったプロジェクトのリストだ。しかもなぜ実現しなかったかが簡潔に書かれている。よくこんなことを考えついたと思うほど、想像力豊かなプロジェクトばかりだ。それとは別に、実現した62のプロジェクトは、現実に存在するセリ・ノワールの本の帯の体裁をとって、その前の展示室で紹介されている。
私小説的な作品もあるため、ソフィ・カルを嫌う人は多い。(羽)には自己愛の強さが鼻についていたが、この展覧会で、そんなことはどうでもいいと思えるほど、彼女の豊かな創造性を目の当たりにし、見方が変わった。アートの世界ではアイデアを真似されることが多いが、彼女は、真似する人が出てきても、さらに斬新なアイデアを思いつく。創造力の泉のようなアーティストである。(羽)2024年1月28日まで
Musée Picasso Paris
Adresse : 5 rue de Thorigny , 75003 Paris , FranceTEL : Tel : 01 85 56 00 36
アクセス : Chemin Vert / Bastille
URL : https://www.museepicassoparis.fr/fr
月休、元旦休館。10 h30-18h(週末と学校休暇中は9h30-18h)。14€ / 11€ 子ども1人の同伴者1−2人に割引料金。 18歳未満無料。