アタル教育相は新学期が始まる直前の8月31日、アラブ世界の衣服「アバヤ」と「トーブ」を公立小中高校で禁止するとの通達を全校長宛てに送付した。この措置には議論があり、ムスリム団体が9月1日に国務院に提訴したほか、左派政党の一部も同様に訴える構えだ。
「アバヤ」(全身をおおうコート状のアラビア半島の女性の民族衣装)や「トーブ」(同様の男性衣装)に関して、公立小中高内でのライシテ(非宗教)の原則を侵す違反通報が増加しているとして、教育相は27日に禁止の方針を表明していた。
公立学校で信教をあからさまに示すものを身につけることを禁止する2004年法でイスラムのスカーフ、ユダヤ人の帽子キッパ、大きな十字架などが禁止されているが、アバヤとトーブは明確な禁止対象ではなく、これまではまず生徒との対話を優先し、それが不調に終わった場合は段階的な罰則措置を取るとされていた。ンディヤエ前教育相はライシテ原則を説明するなどの対話を行い、その服装が宗教的な意図を持つか否かの判断を校長に委ねるとしており、一部の校長からはより明確な指針が欲しいとの声が上がっていた。
今回の通達ではアバヤやトーブを身に着けた生徒は授業に出られず、まずは学校側との対話段階があるが、それが実らなければ自動的に学校の規律委員会にかけられる。こうした手順が通達では明確に示されているという。
極右と右派政党は校長に対して明確な指針を与えるものと歓迎。左派では社会党、共産党は賛成だが、服従しないフランス党(LFI)とエコロジー政党は反対している。LFIのメランション氏は「服装に関する、意図的でばかばかしい宗教戦争」と発言した。両党は、アバヤは宗教的な衣服ではなく文化的なものであり、禁止はムスリム攻撃であると非難した。ムスリム宗教仏評議会(CFCM)は、アバヤは宗教的な服装ではないとの公式見解を6月に出している。また、ムスリムの権利行動協会(ADM)も1日に同様の見解を出し、今回の通達は「ムスリムとみなされる子ども」の教育の権利を奪うものとして国務院に提訴した。
ル・モンド紙の報道によると、この問題が上がっているのは全国約1万の中高と4.5万の小学校のうち150校で、その割合は少ない(アタル教育相は9月4日、513校が同問題を抱えている可能性があると発言)。その一方で、服装問題を含むライシテ関連の通報はこの1年間で2167件から4710件に増えている。
いずれにしろ、その服装の背後に宗教的意図があるかどうかを見極めるのは困難だろう。原則的に学校での服装が自由なフランスで、ある服装を宗教的なものと判断して懲罰を科すことができるのかという問題もある。教師不足などより深刻な問題を抱える公立学校であえて摩擦を増やす必要があるのだろうか?(し)