マルセイユ検察局は8月10日、27歳男性が7月1日の深夜に死亡した事件で、国家警察特殊部隊(BAC)の警官3人を暴行致死の容疑で被疑者とした。パリ郊外ナンテールで交通取り締まりの際にナエルさん(17)が警官に射殺された事件をきっかけに全国に広がった暴動(6月末~7月初め)においての、警察の行き過ぎた暴力行為が次々に明るみに出ている。
この事件はマルセイユ中心街で商店の破壊や略奪を伴う暴動があった夜、モアメド・ベンドリスさん(27)が胸と太ももにゴム弾銃の弾を受けて倒れ、心停止で亡くなったもの。7月5日に捜査が開始されたが、路上の防犯カメラなどの映像により警官5人が特定されて逮捕されたのは8月8日。10日の予審判事による急速審理でうち3人が被疑者となり、司法監視下に置かれた。モアメドさんのいとこ(22)もその前夜にゴム弾銃を左目に受けて失明し、こちらは捜査が続行中だ。
マルセイユで同夜(7/1)に同じ地区で、エディさん(22)もゴム弾銃を頭部に受けた上に4、5人の警官からなぐる蹴るの暴行を受けて頭が陥没する重傷を負った。この件も7月5日に捜査が開始され、同18日に8人が逮捕され、うち4人が20日に被疑者となった。
このうち1人が勾留されたことに警官組合やマルセイユやパリの警官が反発し、一部の警官は病欠を理由に勤務をボイコットする事態が7月中続いた。勾留された警官は勾留の取消しを求めて訴えたが、エクサン・プロヴァンス裁判所予審部は8月3日、勾留延長を決めた。その審理中、警官は以前の供述を翻してゴム弾銃を発射したことを認めた。同警官の供述全体に信頼性が置けないというのが予審部の勾留延長の理由だ。
暴行を受け頭部に重症を負ったエディさん。すでに3度の脳の手術を受けており、まだ手術が続く。命をとりとめ証言することができた。
警官たちの反発を受けて、国家警察トップのフレデリック・ヴォー氏が暴動への対応に尽力した警官の収監はあり得ないと7月23日に発言。パリのロラン・ニュネーズ警視総監もこれを支持した。これに対し、社会党フォール第一書記が「警察は法を超越するのか」と発言するなど、左派が反発。司法官組合も、司法の決定に異議を唱えるのは法治国家の原則に反すると批判した。警官の抗議運動が拡大するなか、沈黙を保っていたダルマナン内相がやっと27日にヴォー国家警察局長を全面的に支持すると発言したうえ、警官組合との会見後、公務員の勾留制度を見直す用意があるとした。
ほかにも、ナンシーの近くで25歳男性が鉛粒の詰まったビーンバッグ弾を受けて3週間、意識不明になった件、ナンテールでナエルさんの死を悼む行進に参加した24歳の男性がゴム弾銃を受けて顔面に重傷を負った件など、暴動関係だけで計31件の警察監察総監(IGPN)の捜査が進んでいる。これまでもゴム弾銃の被害は、特に黄色いベスト運動以降、多く報じられており、その危険性が問題視されている。ポルトガル、スペインを除くほとんどの欧州他国では禁止かほとんど使われていない。
7月31日付メディアパルトは、エディさん事件で被疑者となった警官の1人が、2018年にも女性にゴム弾銃発射と暴行を働いた可能性があり、当時は警官が特定できず不起訴になったが、今年6月に捜査が再開されたと報道している。このように訴追されないケースもあるため、今回メディアで報じられた警官の暴行事件は氷山の一角かもしれない。被害者に移民系の名前が多いことから人種差別的な警察の体質も垣間見え、その警察を擁護する内相にも強い不安を覚える。(し)