国民議会は3月21日、原子炉建設促進法案を賛成402、反対130票で可決した。法案は1月に上院で可決しており、今後、2回目の国会審議にかけられるか、両院合同委員会で最終案を探るかは明らかにされていない。
政府提出の同法案はマクロン大統領の原発促進策に対応する。2050年までに欧州加圧水型炉第2世代(EPR2)6基の建設、さらに8基の建設計画の策定を容易にするのが目的。与党連合、共和党、国民連合、共産党が賛成、環境保護派や服従しないフランス党(LFI)議員が反対した。
法案が成立すれば、新原子炉の建設には都市計画規則の適用が免除され、放射性物質が収容されない建物の建設は公聴会より前に進めることが可能になる。上院では、2035年までに電力総生産の原発割合を現在のほぼ7割から5割にする条項、全原発による年間電力容量を63ギガワット(GW)以下に抑える条項が政府案から削除され、国民議会でも削除されたまま可決された。
他方で、大統領の意向により、放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)を原子力安全局(ASN)に吸収する政府修正案が挿入されたが、国民議会で否決された。IRSNは1800人のエンジニア、医師らの専門家が原子力の安全性についてASNに助言する機関で、IRSN吸収は「安全性管理と専門鑑定を弱体化させる」とIRSNとASNの職員労組は反対していた。
環境保護派とLFIは、河川水位の低下による冷却水確保の問題、海面上昇による原発冠水リスクなどを挙げ、原発推進に反対する。昨年夏に川の水温が上がり、温排水を抑えるために原発の出力を下げる事態になったのは記憶に新しい。河川の平均水量は2050年までに40%減るという調査もある。また、政府は6基のEPR2の建設費を517億€と試算しているが、仏電力会社(EDF)は645億€の負債を抱え、建設資金の調達方法は不明だ。昨年問題になった原子炉の冷却水配管の腐食割れが3月上旬にも新たに3基で発見され、メンテや技術面の人員不足も問題になっている。放射性廃棄物貯蔵問題も長期的に見て解決されているとは言えない。
世界でも欧州でも再生可能エネルギーが推進されている。例えば太陽光発電では22年にドイツで7.9GW、スペインで7.5GWの電力容量を増やしたが、フランスは前年より減少。政府は再生エネの促進策も打ち出しているが、原子力への依存が再生エネの発展を妨げているのは確かだろう。ドイツなどの明確な姿勢に比べ、仏政府の姿勢はあいまいだ。(し)