ゼレンスキー大統領、渡欧で武器供給訴え。
ウクライナのゼレンスキー大統領は2月8日、ロンドンに続いてパリを訪問し、マクロン大統領、ショルツ独首相と会談した。翌9日にはブリュッセルで欧州首脳会議に出席。大型兵器、とくに戦闘機の支援を強く訴えた。
ゼレンスキー大統領のフランス訪問はウクライナ戦争が始まってから初めて。マクロン大統領は8日の会談前の記者会見で、ウクライナが勝つまで必要な軍事援助を続けると発言。以前のロシアに配慮した姿勢から、ウクライナ支援を明確に打ち出す姿勢への変化が目立った。
それに先立つ1月31日のウクライナ国防相の訪仏時、ルコルニュ軍事相は、提供済みの砲兵システム搭載トラック「カエサル(セザール) 155mm自走榴弾砲」18台に加えて、新たに12台を供与すると発表していた。
また、ポーランドに150人の仏兵士を追加派遣して、ウクライナ兵訓練キャパシティーを現行の月200人から月600人にするとこと、さらに中距離ミサイルの検出能力に優れた仏製レーダー「グラウンド・マスター200(GM200)」1基をEU支援基金を通して購入したことと明らかにしていた。
仏政府は短距離地空ミサイル「クロタル」の供給継続も約束し、3日には伊と共同開発した中距離地対空ミサイルシステム「SAMP/T マンバ」の供給を決めており、ウクライナへの軍事援助促進の姿勢が明確になってきている。
欧米諸国が武器供給に積極的に
戦争の長期化により、当初は大型兵器の供与に慎重だった他の欧米諸国の態度も変化しつつある。米国は12月に長距離地対空ミサイル「パリトリオット」供与を決めたのに続き、今月3日にも射程150km以上の高精度滑空爆弾 GLSDB の供給を明らかにした。
ドイツもポーランドらの圧力に押された形で1月末にレオパルト戦車14台の提供を決め、ポーランドやフィンランドの所有する同戦車の供給が可能になり計112台が供与される予定だ。同時に米国も主力戦車「M1エイブラムス」の供与を発表。いずれも実際に供与されるのには時間がかかるが、ロシアの侵攻からまもなく1年が経ち、ロシア軍の攻勢が強まるとの見方から武器供与の動きが加速されている。
独キール世界経済研究所によると、フランスは12月初め時点のウクライナへの軍事支援で、米の228億€、英国の41億€、独23.5億€、ポーランドの18億€に遠く及ばず4.8億€にとどまっていた。
経済的援助も含めて国内総生産の1.1%にあたる支援を行うエストニア、そしてラトビア(同0.93%)、ポーランド(0.5%)など積極的な国に比べると、フランスは0.05%。各国の足並みはそろわないながらも、EUはウクライナへの全面支援姿勢を示し、加盟国個別の支援も含めるとEU全体でこの1年間の金銭、人道、軍事支援の合計は現在500億€を超えている(うち軍事支援は120億€)。
2021年に設置された欧州平和ファシリティ予算により、外国軍に対して防衛装備品等の供与が可能になったため、加盟国の軍備支援の多くは同予算から払い戻される仕組みだ。
次の段階はウクライナの求める戦闘機だが、現時点では欧米諸国はその供与を検討する姿勢を示しながらも、すぐには決定できないとしている。マクロン大統領も「戦闘機供与の可能性は排除しないが、現時点では現地での必要性に適応せず、供給やウクライナ兵の訓練に時間がかかるためすぐにはできない」と発言。ウクライナ侵攻2年目入りを目前にロシアの攻勢が強まるなか、欧州は厳しい決断に迫られている。(し)