Alice Neel – Un regard engagé
人種差別、貧困、男女差別、植民地主義などと闘うアーティストは多いが、だからと言って彼ら、彼女らの作品が素晴らしいかどうかは、別の問題だ。創造者の政治的・社会的信条が、その人の作品評価に及ぼす影響には注意する必要がある。と前置きしたのは、当時の美意識からずれた女性のヌードや社会の底辺の人々とを描いたアリス・ニールが、ともすればコミュニスト、フェミニストという観点からしか評価されかねないからだ。
1900年に生まれ、フィラデルフィアにある女子デザイン学校を優秀な成績で卒業した。キューバ人アーティストと結婚して女児を産んだあと夫と別れ、船乗り、歌手、写真家らと恋仲になり、2人の息子を産んだ。シングルマザーのハシリである。ヒスパニック系の歌手と一緒の頃、ニューヨークのスパニッシュ・ハーレムに移り住み、地域住民の肖像画を描いた。病室に横たわる痩せた男性、子どもにおっぱいを与える女性など、モデルは皆彼女の親しい人たちだ。
「負け犬、アウトサイダーに惹かれる」というニール自身、長い間、絵が売れず美術界から無視され続けた負け犬であり、時代の主流から外れたアウトサイダーだった。抽象絵画やポップアートがもてはやされた時も、ニールは自分のスタイルで具象の肖像画を描き続けた。
評価され始めたのは、フェミニズムの運動が活発になった1960年代だ。「タイム」誌の表紙に、ニールが描いたフェミニスト活動家の肖像が掲載され、彼女も社会と妥協しないフェミニストの画家として脚光を浴びた。一般に広く認知されたとき、彼女は70歳になっていた。
フェミニスト、コミュニストというレッテル抜きで彼女の絵を見るとき、一番強く感じるのが人間観察の鋭さだ。そこには、生身の人間がいる。モデルになった人の弱さ、不安、誠実さ、意志の強さが見える。モデルの目力は強く、絵を前にするとモデルにとらえられたような錯覚に陥る。頭のバランスが大きかったりするのは、一番描きたい部分を強調しているからだろう。
ニールが描くヌードの女性は、美化された女性でも、セクシャルな存在でも、アカデミックにとらえた造形でもない。自分を描くときも、この態度は変わらなかった。80歳になった彼女は、肘掛椅子に全裸で座る自分を鏡を見ながら描いた。多くの人を描いた後、人生の終盤に裸の自分を描いた。人間を描くことの原点に戻りたい気持ちがあったのだろうか。(羽)
1月16日まで
Centre Georges Pompidou
Adresse : Place Georges-Pompidou , Paris , Franceアクセス : Rambuteau / Hôtel de Ville / Châtelet /RER : Châtelet Les Halles
URL : https://www.centrepompidou.fr/fr/
火休、水〜月11 :00-21 :00