EUのロシア石油禁輸措置、袋小路に追い込まれる。
欧州委員会が5月4日に加盟国に提案したロシアの原油・石油製品の禁輸措置についての加盟国の意見が未だまとまらず難航している。一方のロシアのほうは、ウクライナやポーランド経由のガスパイプラインによるEU諸国へのガス供給を10日頃から減らしており、エネルギー戦争の様相を呈してきた。
フォン・デア・ライエンEU委員長は4日、ロシア制裁第6弾の一環として、ロシアの原油を半年後までに、石油製品を年末までに禁輸することを加盟国に提案。ロシアの石油への依存度の高いハンガリー、スロバキアはただちに反対し、両国には1年間の特別猶予期間が提案された。それでも合意がならず、EU委はチェコを加えて2024年までの猶予を譲歩した。だが、ハンガリーは5年間の猶予と、石油が陸揚げされるクロアチアからのパイプライン建設へのEUの資金援助を求めている上、ブルガリア、ギリシャ、キプロス、マルタも反対に回り、全加盟国の合意が必要な制裁案は宙に浮いたままになっている。
EU全体の使用量からすると、ロシアからの原油輸入は30%、石油製品は15%と割合は大きくないが、ロシア石油への依存度は各国で異なる。フィンランド、スロバキア、ハンガリー、ブルガリアは自国の消費量の75~100%を、ポーランド、リトアニアは50~75%をロシアから輸入。また、石油輸送を行なう海運国ギリシャ、キプロスなども影響を受ける。禁輸による不足分を埋め合わせるために石油輸出国機構(OPEC)やOPECプラス(ロシア含む)から追加輸入する交渉も、ロシアとの関係悪化を避けたい国々の思惑があり、思うように進んでいない。
ロシアも対抗制裁
ロシアのほうも11日、欧米31企業への制裁を発表して対抗しようとしている。ロシアの半国営ガス会社「ガスプロム」は12日、EUへのウクライナ経由のガス供給を3分の2に減らし、ポーランド経由のメインのパイプラインを今後使用しないと発表。ドイツはロシアからのガス供給が10~11日で40%減少していることを確認した。ロシアは4月末にも、ルーブル支払いを拒否したポーランドとブルガリアへのガス供給を停止しているし、NATOへの加盟申請をしたフィンランドへの電力供給を14日に停止した。フィンランドは不足分(10%弱)をスカンジナビア隣国から供給できるとしているが…。
プーチン露大統領は12日、欧米のロシア制裁措置はロシアよりも欧米諸国の経済や国民を苦しめるだろうと発言している。その是非はいずれ明らかになるだろうが、制裁が諸刃の剣であることは、ロシア制裁に関するEU分裂にも表れている。(し)