ロシアが2月24日にウクライナへの軍事侵攻を始めて以来、欧州はその対応に追われている。ロシア制裁、ウクライナ支援、難民受入れ、EU農業・経済への支援策など課題が山積。欧州は激震に襲われている。3月11、12日とEU首脳会談がヴェルサイユで行われる。
プーチン大統領から東方拡大を非難されている北大西洋条約機構(NATO)は有効な手立てのないまま戦況を見守っている状態だ。だが、これまで主に自然災害に配備してきた即応部隊(NRF)を、ルーマニアに500人(仏軍)、ポーランドやバルト海諸国に1000人、緊急追加配備した。第2次大戦後は軍備に控えめだったドイツは急遽1千億ユーロの軍事予算を計上し、24年までに軍事費を国内総生産の2%にすると政策を180度転換。さらにEUは今回初めて、欧州平和ファシリティー(EPF)を使って武器支援に資金を供給する。ミサイル(ドイツ)から銃弾まで、欧州諸国の大半は相次いで武器支援を打ち出しており、マクロン大統領がしきりに主張していたEU共同防衛構想がここにきて現実味を帯びてきた感がある。
EUは侵攻直前の22日を皮切りに、ロシア政権に近い人や企業の欧州における資産を凍結し(スイスも参加)、ロシアへの軍事転用可能なハイテク製品輸出監視、政権寄りの露メディアの排除など一連の制裁措置を発表。G7も1日に銀行間国際取引システム 「スイフト」からロシア金融機関を除外する措置を決めた。EU諸国は消費する天然ガスの46.8%をロシアから輸入しているが、ドイツは露ガスの新パイプライン稼働を放棄し、石炭発電所や原発の稼働延長も検討中。航空機産業に必要なチタン(世界生産の40%がロシア)、自動車・電子産業のためのパラジウムなど鉱物の供給にも影響が出る。世界有数の穀物地帯であるウクライナ、ロシアから小麦やトウモロコシの供給も滞り、原油・ガス、穀物、鉱物の供給減による世界的な市場価格の上昇がすでに始まっている。また、EUは窒素肥料の30%をロシアから、家畜飼料の4割をウクライナから輸入しており、農業への中長期的影響も懸念される。EUは穀物・肥料の共同市場を作って農家へ供給し、備蓄の放出、欧州での生産強化を目指す方針だ。
このように、欧州は欧州防衛、エネルギー・資源政策、経済・農業政策の転換を迫られている。EUのより強い団結が進むのか、環境保護政策を後退させてもエネルギー・資源・農産物などの自給自足を進めていくのか……戦争が長期化すれば、欧州が(そして世界も)大きな試練にさらされることは確かだ。(し)