モンマルトルの丘の麓に、アール・ブリュット (アウトサイダー・アート)、大衆芸術、幻視芸術など美術界の主流から外れた創作を展示する美術館がある。そのアール・サン・ピエールで30ヵ国112人の作家の、主にデッサンを集めた大規模な展覧会 “HEY! Le Dessin” が始まった。HEY!とはこの展覧会のキュレーター、アンヌ・リシャールが相棒のジュリアンと2010年に創刊したアウトサイダー・アートとポップカルチャーの雑誌名。創刊翌年からHEY!が企画する展覧会がアール・サン・ピエールで行われるようになり、今回は第5弾。多彩で、マニアックな作品が紹介されている。
その中に、日本の死刑囚14人の作品43点がある。死刑廃止のための大道寺幸子/赤堀政夫基金が2005年から毎年催す「死刑囚表現展」に出品された作品の、国外初の展示。この基金は74-75年連続企業爆破事件の確定死刑囚の母、大道寺幸子の死後に、彼女の遺志を継いで発足した。他者とのコミュニケーションを絶たれ、処刑当日の朝まで執行日を知らされず、3畳の狭い独房で死を待つためだけに生を費やす拷問の日々を送る死刑囚に、「生きて償う道」として表現の機会を与えようという趣旨だ。表現展によって彼らの 「思い」を社会に提示し、死刑制度と人権について見る人に問いかける死刑廃止運動である。
死刑囚は自費で紙(A3サイズ以下)やペン、墨汁などを購入し、大型作品を創りたい時は、紙を貼り合わせる。作品には、巧みな筆致の自画像や習字、文字やモチーフの反復、広告・マンガの引用、シュルレアリスム的表現など、アウトサイダー・アートに共通する要素が特徴的だ。究極のアウトサイダーである死刑囚の「思い」が込められた表現が迫ってくる。日本語が読める者は、死刑制度の告発や基金の選考委員への批判など、描かれた言葉にも目が行く。すでに処刑された人、病死した人、冤罪を訴える人も含む死刑囚各自について、事情・背景がわかりやすく示されていないのは残念だ。死刑廃止後40年を過ぎたフランスの見学者にも、より深い関心を呼び起こせただろう。
展示の中には、刑務所での拘置後に仏領ギアナへ流刑になった 「ファンファン」や、アメリカ人受刑者の作品もある。第一次大戦中に塹壕で兵士が作成した木の葉の透かしデッサンなど、稀有な美術表現に出会える機会である。(飛)
Hey!LE DESSIN - La Halle Saint Pierre
Adresse : 2 rue Ronsard, 75018 Parisアクセス : M°Anvers
URL : http://www.hallesaintpierre.org
12/31まで。 月〜金11h-18h、土11h- 19h、日12h-18h.