中世の建設現場を、迫真のVRで見学。
昨今、VR(ヴァーチャル・リアリティ)とか「没入型」体験は、そんなに珍しくはない。でも、2019年4月に炎上したノートル・ダム大聖堂にVRで入れ、1163年の着工時から今日までの850年間を旅できるVRがあると聞き、ラ・デファンスへ。最大6人のグループで「見学」するので、仲間と新体験を共有できる。
背中にマシーンを背負いゴーグルを装着したら、白い床と壁に黒い記号が書かれた部屋へ。500m2の部屋にいながらにして、VRが始まれば建設開始当時のノートル・ダム前へと誘われる。中世からやってきた職工組合(ギルド)の職人さんの案内で、ノートル・ダム完成のために私財を投じたギヨーム・ドーヴェルニュ司教(在籍1228-49)に会い、司教が大聖堂の鍵を開けてくれる。職人さんたちが石を切ったり削ったり、持ち上げたりの作業中だ。
身廊内では、850年間の歴史にその名を刻んだ重要人物ともすれ違う。アンリ4世は国王になる前の1572年、この大聖堂でマルグリット・ド・ヴァロワ(後のマルゴ王妃)と結婚し、ナポレオンは戴冠式を行った。ド・ゴール将軍は1944年8月26日パリ解放を祝福するミサに赴いた(が、将軍が大聖堂前で車を降りるなり激しい銃撃が始まり、広場にいた数千人の市民は散り散りに逃げた。将軍だけは何事もなかったかのように歩いて大聖堂に入り、ミサに参列)。1845年から大修復に携わったユジェーヌ・ヴィオレ=ル=デュックの話も聞ける。当時なくなってしまっていた尖塔を彼なりの解釈で造り直した人だ。
Orangeグループ、制作会社アマクリオ(アンヴァリッド、モン・サン・ミッシェルのビデオマッピング)、VR技術のEmissive社(ルーヴル美術館でのモナリザVRなど)が演出家のブリュノ・セイリエの元に集まり、歴史・科学的監修者なども含めて25人ほどのチームが2年間かけて制作したVRだから歴史の勉強にもなる。
ところで。VRに慣れた人なら問題ないだろうが、初体験の私はゴーグル装着時点で、閉所に閉じ込められたような小パニックを覚えてしまいマスクをずらして深呼吸。VRが始まるとパニックも吹っ飛んだが、ノートル・ダムの屋根に上ると足がすくんだ。それも、屋根の建設のために足場として置かれた木の板の上を歩け、というのだから…。板と板の隙間から下界が見えていて、「さあ、こちらへ」と言われても、足が前に出ないのだ。
開始前に「困った時は手を挙げて」と言われていたことを思い出し、恥ずかしながら挙手。ゴーグルを緩め、自分の足元を見てほっとしたが、またゴーグルを着けると足がすくみ木板の上は歩けず仕舞い。錯覚とはすごいものだ。出た後も、自分にとっては究極の体験にしばらくクラクラしていた。 夢のなかのようだけれど、筋肉のこわばりが残っているのも感じられた。 (六)
INFORMATIONS
Eternelle Notre Dame 永遠なるノートル・ダム
Espace Grande Arche : 1 parvis de la Défense 92400 Puteaux
M°La Défense
12h-20h (月休)。
見学45分間。大人30€/20€。ラ・デファンスでは4/3(日)まで。
全予約制 www.eternellenotredame.com
*コートや荷物は入口でクロークに預け、会場では背中に機械を背負うので、動きやすい服装で。薄手セーターやトレーナーくらいがちょうどよい室温。
*ノートル・ダム大聖堂の歴史に関する展示”Notre-Dame hors les murs” (無料。説明は英仏語)を見て予習してVRへ行くのもいいし、VR後に復習するのもいい。展示の最後には、現在、建築家、企業、研究者、美術品修復師たちが日々進めている工事・修復の様子をまとめた短いドキュメンタリー映画”Rebâtir Notre-Dame de Paris : le chantier du siècle »もある。