仏電力会社(EDF)を大株主とする送電網会社(RTE)は10月25日、2050年のフランスの電力システムを模索する報告書「エネルギーの未来、2050*」の概要を公表した。再生可能エネルギー100%から原子力50%までの、6つのシナリオを提示している。来年初めに詳細なシナリオが公表される予定だが、エネルギー政策は来春の大統領選挙の争点の一つであることから、メディアは一斉に報道した。
この報告書は2019年に政府が依頼したもので、電力の安定供給、ならびに、2015年パリ協定の「2050年カーボンニュートラル(炭素中立**)」目標の2つを前提とする。炭素中立については、建物や設備機器のエネルギー効率向上により、エネルギー総消費量を現行1600TWhから930TWhに下げることで達成を目指す。そのためには化石燃料(現行で全消費エネルギーの63%を占める)を電気に切り替えなければならない。電気の割合は現行25%から55%と主要エネルギー源になる。報告書は、総電力消費量が現行475TWhから645 TWhに増加すると予測してシナリオを描いたものだ。
**カーボンニュートラル(neutralité carbone):二酸化炭素等の温室効果ガスの「排出量」 から、植林、森林管理などによる「吸収量」 を差し引いて、合計を実質的にゼロにすること。
仏紙の報道によると、シナリオは100%再生エネルギーから、87%(2種類)、74%、63%、50%の6つ。最後の50%原子力案では、2050年までに新型の欧州加圧水型原子炉(EPR2)を14基、小型モジュール原子炉(SMR)約20基を新設し、かつ現存の原子炉(56基)の使用を延長する。報告書は、新規原子炉建設なくして炭素中立は実現不可能と強調する。
反対に100%再生エネルギー案は施設の建設、設備機器製造、ストック、送配電網、安定供給の困難さなどから最もコストがかかるシナリオとし、技術面の困難さや国民の受容に問題があるとみなす。国民の受容困難とは、風力発電機の設置が景観や騒音公害の問題から反対運動もあり、洋上も含めて進展が鈍いことなどを指しているのだろう。電力生産コストも原子力50%なら約15%の増加、再生エネルギー中心なら30%と予測しており、原子力案を推奨しているのは明らかだ。
奇しくも10月初めにマクロン大統領は、新型EPR6基建設とSMRの開発計画を打ち出したばかり。ポンピリ環境相は報告書の成果を評価し、新原子炉建設も含めたすべてのシナリオを検討すると発言した。環境保護派の大統領選候補ジャド氏は、報告書が再生エネルギー100%を可能としたことは評価するが、EPRが不可欠とする評価には政府の誘導があると批判。「服従しないフランス」党のメランション候補は原発廃止派で、イダルゴ社会党候補は原発廃止には賛成だが数十年内には実現できないとするなど、左派内でも意見は分かれる。与党の共和国前進内ですら一枚岩ではない。一方で、エネルギー価格は国民の大きな関心であり、将来のエネルギー政策は大統領選の争点の一つになるだろう。
RTEの報告書に対抗するかのように、省エネを標榜する市民団体「ネガワット」が26日にレポートを公表した。RTE報告書が推奨する原発の必要性は電力消費増加の仮定に基づいていると真っ向から反対。2045年までに原発を廃止し、省エネ、住宅・建物の改修によるエネルギー効率向上、風力発電機の増設***などよって100%再生エネルギーは可能で、炭素中立も達成できるとする。
***フランスには現在8千基の風力発電機が設置されている。RTE報告書では、100%再生可能エネルギーのシナリオなら2050年までに2.5万~3.5万基が必要としている(ドイツは現在3万基)。
原発50%案のコストには、事故リスク、廃炉・廃棄物処理の費用が考慮されていないという批判もあり、その案は原子炉の寿命が40~60年とすると、22世紀まで原発を維持する結果になるのではないだろうか。今ちょうど国連気候会議(COP)が開催中だが、2050年よりもずっと長いスパンで未来のエネルギー消費と環境保護、ひいては社会や生活のあり方について考える必要があるように思う。(し)