プロジェクトいっぱいの、ボジョレの若い醸造家夫婦に会いに。
Château de Pougelon – Beaujolais
マコンからリヨンの北まで55kmにわたってボジョレのワイン街道が延びている。地図でサン・タムール・ベルヴュ、ジュリエナ、ブルイィ山、フルリー…と見ていると、これらの名が書かれたボトルの姿が頭に浮かんでしまう。ボジョレ好きにとって、これらの地名はむしろ〈酒名〉だ。リヨンまで来たのだから、足を延ばさずにはいられない。
リヨンから30分ほど、赤や黄金色に染まったブドウ畑の丘陵のなかを車で北上する。ボジョレでも真ん中あたりのサンテティエンヌ・デズリエール村にあるワイナリー「シャトー・ド・プジュロン」へ。1905年創業のワイナリーだが、近ごろ世代交代をし、若い夫婦が継いだという。マリーヌ・デコンブさんは、このワイナリーを創業したデコンブ家の5代目でディレクター。やはりワイン醸造一家に生まれた夫のケヴィンさんは販売を担当する。ふたりとも、幼い時からワインの世界に浸ってきた。マリーヌさんのお兄さんもワイナリーで醸造の技術面を担っている。
17世紀のシャトーを林が囲み、その外にブドウ畑が広がる。砂が多いこの畑では、若いまま飲む「ボジョレ・ヴィラージュ」を造っている。果実味がしっかりしたブルイィ、フローラルで「ボジョレの女王」ともいわれるフルリー。ボジョレでも北に位置し、標高450m、南向きの斜面のジュリエナの畑のワインや、力強いモルゴンなど、同じガメイ種でありながら、畑によって異なる個性が醸し出された2018年のワインを、シャトーのサロンで試飲させてもらった。
数世紀の間に城主は代わり、畑の大きさも変わりながらも、常に城はブドウ畑に囲まれてきた。今は畑を徐々に有機農法に転換しているところで、2025年には完全に移行することが目標だ。
「将来に向けてのプロジェクトを目標に掲げながら、5世代にわたって、時代とともに進化し続けてきました」とマリーヌさん。シャトーと離れている醸造所をシャトー内に移設したり、200種もの樹木が生えている城の周りの林を公園として整備して一般に開放したいという。この12月には第二子も誕生予定で、仕事に家庭に、とて充実しているようだった。
11月といえば第3木曜日は、ボジョレ・ヌーヴォー解禁日。ワイナリーでは、世界で人々が新酒を楽しむ日にむけて遠方への出荷を終えたばかりだった。フランス国内への出荷はこれから。暑い夏が続いて、ここ6年ほどワインの出来は良好だという。やはり初物は楽しいもの。今年はマリーヌさんとケヴィンさんのシャトーの新酒で初物を祝うことにした。(六)
Vins Descombe – Château de Pougelon
462 rue du Beaujolais 69460 Saint-Étienne-des-Oullières
Tél : 04.7403.4173 descombe.com
ブルイィ山と、ボジョレ〈ユネスコ世界ジオパーク〉Mont de Brouilly et le Géopark Beaujolais
マリーヌさんとケヴィンさんの畑から見えていたブルイィ山へ。ボジョレは地質遺産が豊かなため、〈ユネスコ世界ジオパーク〉に認定されているが、その一環としてここブルイィ山の頂で、ボジョレの土壌を形成する岩石の標本を見ることができるのだ。
フルリー村の3億年ほど前の花崗岩、このブルイィ山とともに4億年前くらいにできた独特の「青い石」、4〜5億年前のサンジュリアン村の片麻岩…と、異なる地質年代の石が並ぶ。ボジョレではガメイ種のブドウのみからワインを造るが、このような地質の違いが、それぞれの酒に特徴を与えるというから、時間のスケールもロマンも大きい話だ。次回は是非、地盤の石と比較しつつワインを味わってみたいものだ。
ブルイィ山の頂には、ブドウを病気や悪天候から守ってもらおうと醸造者たちによって建立された小さな礼拝堂ノートル・ダム・デ・レザンもある。なかには入れなかったけれど、標高484mの頂上からの、周囲が360度の眺めは最高だ。