大規模なコロナウイルス検査、やっと始動か?
新型コロナウイルス検査には、検査時のウイルス感染の有無を調べるPCR検査(鼻腔内粘液採取)と、被験者が過去にウイルスと接触があったか否かを示す抗体検査(血液採取)がある。保健省は5月21日に抗体検査23種類を認可した。免疫パスポートにはなり得ないが、過去に症状があった人の感染有無、閉鎖された施設での感染状況を知るための利用が有益との高等保健機関(HAS)の勧告を受けて、ヴェラン保健相は20日、医療・高齢者施設や一般への抗体検査が25日から可能になるとした。医療・介護従事者、さらに医師の処方箋のある一般の人々にも健康保険で払戻しとなる見込みだ。この決定を待たずに自費で抗体検査受ける人が急増していると報じられているが、PCR検査の普及とともにやっと大規模な検査態勢が動き出したようだ。
PCR検査、週70万件は可能なのか?
政府は5月7日、「検査、追跡、隔離」方針のもとに、外出規制解除の5月11日以降は、週70万件のPCR検査を行う用意があると発表していた。1日の新たな感染者を3000人と想定し、それぞれの濃厚接触者20~30人を検査することを前提にはじき出された目標値だ。だが、実際にそれだけの検査が実施されているのだろうか?
5月初め、サロモン保健総局長は4月27日~5月3日の1週間に約20万件の検査を行ったと発表した。それ以来、公式な検査数は公表されていない。ヴェラン保健相は17日付の仏紙のインタヴューで、「15日時点で1日5万件以上の検査が行われた」と発言しているが、14日付ル・モンド紙は週11万件程度という独自の試算や、週28.5万件という専門家の試算を示した後、PCR検査のできる病院、民間臨床検査機関、公的検査機関すべてを網羅する検査実数を集計するツールがないために実数はつかめないと結論づけた。
なぜ、フランスは大規模検査に出遅れたのか?
一方、4月24日付ル・モンド紙は、フランスのPCR検査出遅れの原因を指摘している。4月15日時点の経済協力開発機構(OECD)の調査では、住民1000人当たりの検査数がドイツ17人、アメリカ9.3人に比べ、フランスは5.1人と低い(5月初めでもフランス11人、ドイツ30人)。
各県の動物臨床検査機関や公的研究機関が3月半ば、地域圏保健局(ARS)や公立病院に検査の支援を申し入れたが、そのうちの一部に認可が下りたのは4月中旬になってから。その頃には検査に必要な綿棒、試薬、分析機の世界的不足で入手が難しくなってしまっていた。ドイツが早期に多数の検査をして、感染の連鎖をある程度断ち切ったのに対して、フランスは感染が急激に拡大した3月中旬から1ヵ月をお役所手続きの煩雑さや硬直した規則のために無為にし、その結果、重症患者にしか検査ができないという状態に陥ったという。高齢者施設での検査もやっと4月末頃から全施設で実施された。つまり、マスク同様、政府の対応が後手に回ったために、感染拡大を防止できなかったということだ。
現在、検査態勢は整ったが、、、
4月下旬からはPCR検査の機関数や人員、検査に必要な物資や機器の確保が可能になった。今は獣医、自由業看護師、開業医、警察など以前は権限がなかった人たちも検体採取を実施できるようになり、ドライブスルー方式も採用され始めた。
今後は公衆衛生非常事態の措置により、全国の民間・公共の検査機関600ヵ所の検査データを集約する「Sidepファイル」も設置され、検査実施数も把握できるそうだ。同時に健康保険機関が感染者の濃厚接触者を追跡して検査を促す制度もスタートした。症状のある人や脆弱な人で医師の処方箋があれば、PCR検査料は医健康保険で100%払戻しとなる。
外出規制解除は大規模PCR検査とセットで感染抑止という政府の打ち上げた方針が有効に働くのか、遅きに失したのか、あるいは第2波には有効なのか、様々な疑問がわいてくる。(し)