声優・俳優 ブリジット・ルコルディエさん
少年のような少女のような、性別も年齢も超越したような印象の人だ。ブリジット・ルコルディエさんは、フランス版のアニメ『ドラゴンボール』シリーズの孫悟空、悟飯、悟天という親子3役の声優として知られる俳優・声優。『キャプテン翼』の立花政夫・和夫兄弟、『未来少年コナン』のコナン、実写の劇場映画やビデオゲームの声もこなす。
『ベイウォッチ』など数多の米ドラマや、フランス人になじみ深い子ども番組『ババール』、『Bonne nuit les petits』などにも出演。80年代からずっと、老若男女さまざまな声をフランスのお茶の間に届けてきたゆえに絶大な人気がある。それは、野沢雅子氏に対して日本人が敬愛の念を抱くのに類似すると思う(野沢氏は『ドラゴンボール』孫悟空、悟飯、悟天の3役、『ゲゲゲの鬼太郎』の鬼太郎、『ど根性ガエル』ひろし、『銀河鉄道999』の星野鉄郎役などを演じる俳優・声優)。
今でこそ日本文化熱の高いフランスだが、日本のアニメが放送され始めた80年代後半から90年代は受難の時代だった。1987年に民営化されたばかりのテレビ局TF1は子ども番組「クラブ・ドロテ」で多くの日本アニメを放送したが、視聴覚高等評議会CSAからは処罰されることもあった。
「日本のアニメは『暴力的だから子どもによくない』『子どもを連続殺人犯にする』などと批判されました。19世紀後半に生まれた「japonaiserie(日本趣味 ジャポネズリ)」の言葉をもじって「japoniaiserie ジャポニエズリ(日本の下らないもの)なんて言葉が作られたほど。子どもたちはアニメのよさをわかっていたけれど、大人は聞く耳を持ちませんでしたね」。
「当時フランスではアニメといえば幼稚なものばかり。そこに日常生活やSF、政治などをテーマにしたアニメが日本からやってきた。現実世界に根ざしているけれど夢をみさせるアニメ作品。村上春樹の小説のように、読者は現実の世界にいる、でも扉を開けると羊がやってくる、とか、雨だと思ったら降っているのは魚だった、みたいな世界観の」。
1999年に宮崎駿監督の『となりのトトロ』が公開されヒットし、フランスでの日本アニメに対する視線も変わっていった。
セーヌ・サンドニ県出身。数学や医学を勉強しつつ、演劇やサーカスも好きでやっていた。モリエールの『病は気から』に出てくる子どもルイゾン役を演じていたら、コマーシャルの子役に起用された。「小柄だから子どもだと思われて」(笑)。それ以来ずっと、自分の携わった番組を観る時間もないほど仕事をしてきた。
今は自分の声を聞きながら大人になった人たちが、大人向けのアニメ作品を作るようになり、彼らから出演を頼まれることも多い。後輩を育てるため、吹き替えに興味がある若い人たちを可能な限りスタジオに呼んでいるが、昔に比べて組織からの制約が多くなり、簡単には招待できなくなってきたことを残念がる。
日本には1989年に行ったことがある。前出の野沢雅子さんと共にテレビ番組「なるほど!ザ・ワールド」に出演した。リハーサルの後、生放送。昨年末、ブリジット・ルコルディエyoutubeチャンネルを立ち上げたばかり(すでにフォロワーは25万人)。野沢さんと出演した番組のビデオも掲載するつもりだ。「野沢さんのツイッターはフォローしてます。いいね!をクリックするたびに、私のことを気づいてくれるかな、なんて思いながら」。30年前、自分が日本に招待されたように、野沢さんもフランスに招待したいと、会う人会う人に言っているそうだ。
今後やりたいことは?「また宮崎駿監督の映画の仕事がしたい。日本アニメの吹き替えを、もっとやりたいです」。深みとハリのある澄んだ声の余韻が、心に残った。(集)