フランス映画界が誇る才能セリーヌ・シアマが、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した話題作。名門映画学校フェミスの脚本科出身だけに面目躍如と言える受賞だろう。舞台は18世紀末のブルターニュ地方。主人公は二人の若い女性だ。マリアンヌ(ノエミ・メルラン)は肖像画を描くために派遣された画家で、モデルとなるのは修道院を出たばかりの貴族の娘エロイーズ(アデル・エネル)。肖像画は望まぬ結婚用に描かれるため、エロイーズは協力的でない。絵は無事に完成するのだろうか。
これまで子供時代や思春期の物語を手がけてきたシアマが、初めて大人時代に向き合って新境地を切り開く。コスチューム劇とはいえ、監督が「親密な愛と創作についての物語」と形容し、自伝的な要素を認める作品だ。
物語にはモデルと画家という「見る者/見られる者」の関係性が浮かび上がるが、それはそのまま女優と監督の関係にも繋がってくる。実はシアマはかつて長編デビュー作『水の中のつぼみ』でアデル・エネルを主演に抜擢し、のちに私生活でパートナーとなった。そんな舞台裏を知る者なら、本作で彼女たちの恋愛関係を重ねずにはいられない。
しかし報道によると、撮影前に二人は破局していたという。つまりシアマは別れた恋人の女優に声をかけ、この作品を作ったようなのだ。俳優として監督として、人生の実体験を芸術の糧にしたということか。そのタフさと潔さはあっぱれだし、物語を超えて、映画そのものから前向きな強いエネルギーを感じる。
劇中の画家とモデルには雇用者/被雇用者の関係もあり、社会階層は全く異なるだろう。だが二人には身分の違いによる葛藤などはない。ただ一対一の人間として、極めて公平な関係の上に恋愛は成り立つ。それはつまらぬヒエラルキーという呪縛から解放された女性らしい自由な精神も反映しているのではないか。個人的にはシアマ作品への期待度があまりに高く、お行儀が良過ぎる演出は残念だったが、見ごたえ十分の誠実で美しい作品には違いない。(瑞)