第72回となるカンヌ映画祭が幕開けました。今回も昨年に引き続き、期間中、何度か現地のミニレポートをお届けできたらと思います。
カンヌと言えば、スターが着飾って歩くレッドカーペットの印象が強いでしょうか。そのため「毎年似たようなことをやってる」という思う人も多いかもしれません。しかし目を凝らせば、毎年時代の要請に合わせ、試行錯誤をしながら変化を重ねてもいます。
カンヌがここ数年来、力を入れているのは「映画祭の民主化」です。基本的にはカンヌは映画のプロのための映画祭なので、他の映画祭とは違って公式招待作品は一般の人はチケットを買うことができません。しかし、一般の映画ファンに身近に感じてもらえるよう、様々な工夫を凝らしているのです。
例えば2012年から、オープニング作品は必ずカンヌの初上映日と同日にフランス国内で劇場公開するように決めました。今年の作品はジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画『The Dead Don’t Die』。地面から手が出ている不気味なポスターをどこかで見かけていたら、この作品のものです。
そしてさらに、今年からはカンヌ開幕の晩(今年は14日の晩)に、全国約550の映画館で、開幕セレモニーの中継もはじめました。これまではカナル・プリュス局でテレビ&ネットで放映されてきましたが、さらにもう一歩進んで映画館でも見られるようにしたのです。自宅鑑賞との大きな違いは、映画館ではセレモニーの中継に続いて、そのままオープンング作品が見られることです。お祭り気分が一緒に味わえると言って良いでしょう。今回はひと晩で3万5千人がこの開幕セレモニー中継付きの上映会に参加したそうで、まずは幸先の良いスタートを切りました。
開幕セレモニーの会場はカンヌで一番大きなリュミエール劇場。ここに出席できるのは着飾った監督や俳優らVIPばかり。しかし大方のジャーナリストの場合は、隣接するドビュッシー劇場で中継を見ることになります。あくまで開幕セレモニーの中継なので、鑑賞する側はいたって気楽なもの。着飾る必要もないし、生放送で映り込んでくるミニアクシデントの映像を前に、みんなで失笑したり突っ込んだりと、かなりくだけた雰囲気です。
例えば、今年の審査委員長のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督は、なぜかスペイン語で長々とスピーチをしました。そのスピーチ直後には、半分寝ていたようなビル・マーレイ(『The Dead Don’t Die』の主演です)の顔がアップで映されました。それが絶妙なタイミングすぎて、ドビュッシー劇場は笑いに包まれたものです。
そもそも会場内で同時通訳用イヤホンをもらえたのは壇上の審査員メンバーだけ。会場内でイニャリトゥのスピーチ内容がわかったのは少数だったようです。セレモニーの司会を務めた俳優エドゥアール・ベールは、スピーチ後に、「スペイン語は優美な言葉だから、意味がわからない人にも良い時間が過ごせますね!」と、上手に笑いに変えていたのはさすがでした。
話が「映画祭の民主化」と離れてしまいましたが、最後に少し戻しますと、毎年、オープニング作品以外にも、さらに映画祭期間中には平均して4から6本くらいの公式セレクション作品が、カンヌと同時期に劇場公開されます。これは映画会社がカンヌの力を借り、この時期に宣伝になるので公開しているという裏事情がありますが、カンヌにとっても敷居が高そうに見える映画祭を、一般の方も同じ時期に積極的に楽しんでほしいという期待を持ってます。
具体的には今年の場合は、コンペティション作品なら、すでに本国スペインでヒットを記録したというペドロ・アルモドバルの『Douleur et gloire 』(5月17日公開)、カンヌの常連ダルデンヌ兄弟の『Le Jeune Ahmed』(5月22日公開)、期待の仏人女性監督ジュスティーヌ・トリエの『Sibyl』(5月24日公開)、または特別上映では、『男と女』から50年後を描いたクロード・ルルーシュの『Les plus belles années d’une vie』などがあります(5月22日公開)。フランス在住の方は、ぜひカンヌのニュースも参考にしながら、これらの映画を劇場で楽しんでみてください。(瑞)