10月13日の高校教師殺害事件を受けて、仏政府は翌日、テロ警戒レベルを最高段階に引き上げた。中東情勢を受けた当局のテロ防止の対応はエスカレート気味だ。
事件の犯人はイスラム過激組織「イスラム国(IS)」に忠誠を誓い、フランスの民主主義、教育などの価値観を嫌悪していたという。同事件は、7日のイスラム過激派組織ハマスのイスラエル攻撃に端を発する中東情勢を受けたものとされる。ハマス攻撃では仏人31人死亡、行方不明9人に上り(25日時点)、仏政府はイスラエルへの連帯を表明。またダルマナン内相は12日に全国の知事にパレスチナ支援デモを禁止するよう要請。服従しないフランス党(LFI)がハマスをテロ組織と呼ばないことを与党、右派、左派内の社会党などが一斉に非難したことも仏のイスラエル寄りの姿勢を強調する結果になった。
テロ警戒レベル引き上げに伴い、約1万人のテロ警戒巡回兵が全国に配備された。ストラスブールでは19日にシナゴーグ前で刃物を持ったチェチェン系仏人を逮捕。また、落書き、放火など7~17日の反ユダヤ行為の届出は327件に上った。美術館、学校、空港などへの偽の爆破予告で避難騒ぎも相次いでいる。治安・司法当局はイスラム過激思想が疑われる人の家宅捜索、過激思想が明らかな二重国籍者の強制送還、国籍剥奪を行ない、果ては「ハマスの攻撃はイスラエル政府の挑発に対する回答」と記したパレスチナ支援デモを呼びかけるビラを配った労組CGT幹部の身柄を拘束するなど、対応がエスカレートしている感がある。内相は、イスラム過激思想を持つ外国人の強制送還を容易にする法改正をすると発言し、来月に国会審議される移民法案の規制強化姿勢を明確にした。アタル教育相も過激思想を持つとされる183人の生徒の退学を決めた。
一方、イスラエルのガザ封鎖・爆撃に対し、パレスチナ支援のデモの動きも活発だ。国務院が内相のデモ禁止令を無効とし、パリ行政裁判所が許可した22日のパリのデモには主催者発表で3万人(警察1.5万人)が参加し「ガザ住民の虐殺停止」を叫んだ。マルセイユ、リヨンでも千人規模のデモがあった。
マクロン大統領は、欧州最大のユダヤ人共同体を持ち、かつムスリムが多いフランスにイスラエル=パレスチナ紛争が移植されて国が分裂する恐れがあると記者に漏らしたと報じられているが、まさにその通りになっている。フランスは共同体間の反目、思想の違う人たちの分裂に進んでいくのだろうか?(し)