教育は「優しさの中に厳しさをこめて」と説いた思想家モンテーニュは、子供が幸せに生きていくためには、ときに過酷な経験をさせることも重要だとしている。
「お子様を苛烈な訓練に馴らし、そうして脱臼や、疝痛(せんつう)や、焼灼(しょうしゃく)や、牢獄や、拷問などの艱難(かんなん)辛苦にも堪えるように育てなければなりません。なぜなら、ここに挙げた最後の二つには、お子様といえどもおちいる危険がないとは申せないからです。時世が時世ですから、善良な人々も邪悪な人々と同じくその危険にさらされているのです」(原二郎訳)。乱世を生き抜くためには、子供の頃から精神的にも肉体的にも「忍耐」に慣れておく必要があるというわけだ。
食べ物についても、口当たりのよいものだけを与えるのは、子供にとってかえって悪影響になるという考え。「彼から着物や寝具や飲食物の上等と贅沢を取り上げて、何にでも馴れるようにしてください。ふにゃふにゃした美少年でなく、生気溢れる逞しい少年に育ててください」としている。「われわれは彼の計画のうちに思慮があるかどうか、彼の行動のうちに善良と正義があるかどうか、彼の言葉のうちに判断と上品さがあるかどうか、病気のときにそれに耐える強さが、遊戯のうちに謙虚さが、快楽のうちに節制が、肉、魚、葡萄酒、水などの好みの中に無頓着があるかどうかを見なければなりません」。
男児のみを対象としているところはいただけないものの、この数行には、子供を教育する際の大事なエッセンスがつまっている。たしかに、なんでもおいしく食べられる方が、どんな環境下でも幸せに生きやすい。城育ちであるモンテーニュ自身、「訓練」して「無頓着」を身につけたという。ただし、おちゃめな賢人は読者への目くばせも忘れない。「ビールを除いて、人の食べるものなら何でも、好き嫌いなく食べられるようになりました」と、自らの弱点も告白している。(さ)