『Cyril contre Goliath』『Pierre Cardin』
フランスでは今月、ピエール・カルダンに関する映画が2本公開される。違う角度から稀代のデザイナーに斬り込んでおり、両方見ると謎めく男の立体像がリアルに立ち上がる。
最初は6月にオヴニーが紹介した『Cyril contre Goliath』(トマ・ボルノ監督)。この時は映画館が閉鎖されていてVODでしか鑑賞できなかったが、9月7日より晴れて劇場公開となった。カルダンはサド公爵ゆかりの南仏ラコスト城を買収した。その後も徐々に周辺の家々や土地も買い占め、気がつけば幽霊村に。村固有の文化は風前の灯。村をよく知る作家のシリル・モンタナが、そんな大物デザイナーの暴挙に立ち向かう体当たりのドキュメンタリーだ。
もう一本が9月23日に公開される『Pierre Cardin』(邦題 : ライフ・イズ・カラフル!未来をデザインする男ピエール・カルダン』P・デビッド・エバーソール&トッド・ヒューズ監督)。こちらは彼の華々しい功績を追う記録映画。『Cyril contre Goliath』では作家シリルのアポから逃げ回っていたカルダンの甥でカルダン社社長のロドリゴ・バジリカーティが、ここでは嬉々として案内役に徹する。村を買えるほどの財がいかに築かれたか、本作を見ればそのカラクリがわかる。
カルダンは唯一無二のモダンなスタイルを確立し、デザイナーとして超一流。さらに時代を読む目があった。プレタポルテやライセンス事業に舵を切り、男性モード界にも進出。日本人モデルの松本弘子を起用しアジアの美も印象づけた。他にも功績は尽きないが、芸術と商売の才能のかけ算が成功をもたらしたと言える。
劇中、多くの人がカルダンを礼賛するなか、フィリップ・スタルクの証言が興味深い。「私たちはモダンさを求めた意味では同じだが、カルダンは資本主義、私は共産主義の違いがある」。その言わんとするところは映画を見て確かめてほしい。
今も第一線に立ち、この世の春を謳歌する98歳のカルダン。ファッション界の巨人の全貌を捉えた見応えある映画ポートレイトだ。(瑞)