Le Paraïs, maison de Jean Giono à Manosque
『木を植えた男』で日本でも有名な作家ジャン・ジオノ(1895–1970)はマノスクに生まれた。町の城門をくぐって旧市街に入ると、すぐに彼の生家がある。詩を書き始めたのは7歳のころ。靴職人の父親が健康を害し、家計を支えるため16歳で銀行に勤め始めたが、その傍ら読書や執筆を続けた。当時、新刊書は高く、手の届く値段のギリシャ・ラテン古典文学の本を買い「モンドールの丘のオリーヴ畑でヴェルギリウスを読むのが日曜日のたのしみだった」と後に語っている。
今年はジオノ没後50年。小説『屋根の上の軽騎兵 Hussard sur le toit』(1951)の舞台はコレラが蔓延する1832年のプロヴァンスということもあり、コロナ禍とも相まって今再び脚光を浴びている。同作品はジュリエット・ビノッシュを主演に1995年に映画化され、『プロヴァンスの恋』の邦題で日本でも上映された。主人公アンジェロは祖国イタリアの独立をかけて戦った末アルプスを越えて逃げて来たが、ジオノの祖父も同じ境遇の亡命者だった。
「ル・パライス」と呼ばれるジオノの家はモンドールの丘の麓にある。1929年に初めて出版した著書『丘』が好評で、執筆業に専念しようと買った家。40年間住み続け、ほぼ全作品をここで書いた。
「不動の旅人」とも呼ばれるジオノは旅少なく、空想で旅をするのが好きだったというが、一方で、書斎を作っては家の中で何度も引っ越した。本棚には美術書、兵術書から能楽集など8千冊、ジオノが翻訳を考えていたという『源氏物語』もある。
作家のジイド、パニョル、サンドラース、哲学者ハイデガー、写真家のアーヴィング・ペン、画家のベルナール・ビュフェとカップルだったピエール・ベルジェ(ジオノはベルジェを「息子として、最良の友として」慕った)…多くの人が彼に会いにこの家を訪れた。
この家を本拠地とする「ジオノ友の会」のジャック・メニ会長は「 〈作家ジオノ〉は第一次大戦で生まれたと言えます。戦争の前後で全く作品が違います」という。ジオノはヴェルダンなど激戦地で5年間を過ごした。
ジオノは徹底的な平和主義者となり、それに賛同する人たちとマノスクから30kmほどのコンタドール高原に年に2回集まり、芸術や思想、新しい世界について語り合った。第二次大戦は徴兵を拒否。2度投獄され、作家委員会によってドイツ協力者とみなされブラックリストに載せられ、出版ができない時期もあったものの平和主義を貫いた。
日本では映画よりも主題歌が知られている『河は呼んでいる』は、デュランス河を舞台にジオノがシナリオを書いた(ナレーションもジオノの声)。羊飼いが「一番の幸せはパイプで一服する時さ」と言うのは、ジオノ本人のようだ。「毎日の無償の小さなこと」に幸せがあると言ったジオノ。文明と進歩、自然との共存、今私たちが抱えている疑問を、半世紀前から問いかけていた。(集)
INFORMATIONS
・Le Paraïs – Maison de Jean Giono : Impasse du Paraïs
Montée des Vraies Richesses 04100 Manosque
家の見学はガイド付きのみ、予約制:04.9270.5454 8€/7€
4/1~9/30 : 火〜土の10 h30/14 h30/16 h
庭、ブティック、サロン・ド・テ(無料):10h-12h30/14h-18h
10月〜3月についてはサイトを参照:
www.rencontresgiono.fr/horaires-des-visites.html
・Centre Jean Giono
3 bd Élémir Bourges 04100 Manosque 04.9270.5454
ジオノの生い立ち、影響を受けた本や人物などがわかる、ジオノ入門的な常設展が見られる。月日祭休、4月〜9月 : 10h-12h30 /14h-18h、10月〜3月 : 14h-18h、6€。
第22回 Les Correspondances(文学フェスティバル)の会場となる。今年は9/23~27に開催。
・マノスク周辺の作品に登場する場所を巡る散策コースRoute de Jean Gionoの情報は :
www.tourisme-alpes-haute-provence.com/route-jean-giono/