Maison-Musée Maurice Ravel
「パリから30km以上離れた静かな住処」を求めて、大作曲家モーリス・ラヴェル(1875-1937)が1921年に購入し、亡くなるまで住んだ小さな家がモンフォール・ラモリーにある。パリから西に40km、ランブイエの森を窓から見晴らせるベルヴェデール(眺望亭)だ。購入当時46歳のラヴェルはすでに、ピアノ曲『水の戯れ』『夜のガスパール』、組曲『マ・メール・ロワ』などで高い評価を受けていた。1910年代はオペラ『スペインの時』やディアギレフのロシア・バレエ団が演じた『ダフニスとクロエ』など、前衛芸術の担い手となり、『春の祭典』の作曲家ストラヴィンスキーとも親交を深めた。第一次世界大戦に軍用トラック運転手として1916年に従軍したが、腹膜炎手術療養中の1917年1月に最愛の母親を亡くし、しばらく作曲が手につかないほどの悲哀に陥った。
戦後、パリは1920年代の「狂乱の時代」を迎える。革新的な芸術運動に貢献しつつも、ラヴェルは作曲に集中できる家に移転した。部屋は狭いが、窓やバルコニーから見渡せる森の景色に魅了された――「思考は逃げずに景色に当たり、戻ってくる」。ラヴェルは自ら内装と庭をデザインし、湿っぽかった古家を快適で独創的な空間に変えた。モダンな格子縞と古典的な家具や壁紙をマッチさせ、古代ギリシアや東洋のインスピレーションを組み入れる。ラヴェルの音楽を特徴づける巧妙な折衷主義、ディテールへのこだわり、洗練されたエレガンス、charme(魅力/魔法)が表現される。壁のフリーズ(帯状装飾)や、寝室の壁の上下逆さまのギリシャ神殿の柱、椅子の装飾などは自分で描いた。
友人の詩人、レオン=ポール・ファルグが「びっくり箱、船のキャビンのよう」と形容したとおり、それぞれの部屋は独特の雰囲気に包まれ、家具やさまざまなオブジェにはすべてラヴェルの嗜好が表れている。浮世絵やアメリカから持ち帰ったトーテム、書斎に置かれた自動人形、ジャズを聴いた蓄音機。本棚に並ぶボードレール、ラマルティーヌやマラルメ。音響が工夫された「音楽室」のピアノで、ラベルはオペラ『子どもと魔法』、最も有名な『ボレロ』、2つのピアノ協奏曲などを創作した。作曲中の楽譜は、サロンの片隅から入ることのできる秘密の小部屋に置かれていた。ダンディーなラヴェルを彷彿させる階下のバスルームと寝室からも、庭(日本庭園からのインスピレーション)と遠景の森が一望できる。
晩年の10年間を題材にしたジャン・エシュノーズの小説『ラヴェル』(2006年)には、複雑で矛盾に満ちた孤独な作曲家が衰えていく姿が描かれている。1932年のタクシーでの事故後、ラヴェルは筆記・言語障害と記憶障害がひどくなり、頭に流れる音楽を記譜できない苦悶に苛まれた。ヴァイオリニストのエレーヌ・ジュルダン=モランジュなど芸術家の良き友人たちに囲まれながらも、生涯孤独だった天才作曲家ラヴェルの悲劇的な終幕である。友人たちが語る「子どものような天真さ」で宝石細工師のような完璧さを求めた彼は、絶妙な美しい音楽と謎を後世に残した。(飛)
INFORMATIONS
Maison-Musée Maurice Ravel :
ガイド付見学のみ、見学は1時間程度。
開館日(火〜日)、6人までのグループでの見学。
大人9.50€ 12-18歳5€ 11歳以下無料。
要予約 : Tél. 01.3486.8796 tourisme@montfortlamaury.fr
モンパルナス駅からN線 Monfort-l’Amaury – Méré下車、駅からは3kmほど。
Maison-Musée Maurice Ravel
Adresse : 5 rue M. Ravel , 78490 Montfort-l'Amaury , FranceURL : https://www.montfortlamaury.fr/culture-tourisme/sites-et-monuments/la-maison-musee-de-maurice-ravel/