アメリカ人写真家で、現在はフランスに住んでいるルイス・ステットナー(1922-)が自作140点をポンピドゥ・センターに寄贈したのを記念し、地下の写真展示室で個展をやっている。作者の思いや人柄が伝わってくる、珍しい写真展だ。ひとつひとつの作品に作者の言葉を添えたことの効果が大きい。写真家の友人から話を聞きながら、彼と対話しているような気分になる。
ブルックリンで生まれたステットナーは10代のころに写真に目覚め、戦後は「ライフ」や「タイム」に報道写真を発表した。戦後すぐ、パリにしばらく住んで、人気のない街角を撮った。人はいないのに、家の中にいる人の気配が感じられる。ニューヨークのペンステーションから、勤めを終えて郊外の自宅に戻る列車の中の人々からは、大勢の中にいながらも、一人になったときのほっとした気分が伝わってくる。イビザの漁師を撮った写真は、映画のシーンのように動きのある情景を捉えている。彼が撮る女性労働者のしぐさは優雅だ。
「自分は感動についていく。撮影を知的な作業にはしない」というステットナーは、気候にも、木にも、人にも感動し、当たり前のように見えるものの中からきらりと光るものを見つけている。(羽)
9月12日まで 火休 ポンピドゥ・センター