When We were Kings
モハメド・アリが6月3日、74歳で亡くなった。1997年に封切られたこのドキュメンタリーは、1974年10月、ザイールの首都キンシャサで行われた世界ヘビー級タイトルマッチでのアリを追っている。
1967年に「俺はベトコンとは何の問題もない。彼らはアジアの黒人だ」と主張し、ベトナム戦争の徴兵を拒否して有罪判決を受け、世界チャンピオン資格をはく奪されたアリはすでに32歳。史上最強のハードパンチャー、ジョージ・フォアマンの餌食さ、というのが大方の見方だった。しかし、自分はアフリカ人だと誇らしげなアリはキンシャサっ子の人気を独占する。試合開始。1ラウンドでフォアマンの強烈なフックを浴びたアリの目に恐怖の色…。しかし観客席からは「アリ、ボマイエ!(アリ、やってしまえ)」の大合唱が巻き起こる。試合は一方的で、ロープを背にしたアリはボディを連打される。そして奇跡の第8ラウンド。打ち疲れたフォアマンの顔面にアリの目にもとまらぬ速さの右ストレートが飛び、フォアマンは沈む。
試合の翌朝、アフリカ人たちに囲まれたアリは「私たちアメリカ黒人は裕福かもしれないが、貧困の中でも誇りを失わないあなた方にかなわない。私たちは甘やかされその誇りをなくしてしまった」と語る。
引退後、アリのパーキンソン病との長い闘いが始まる。ハーバード大学の2000人近い大学院生を前にして、失読症にもかかわらずスピーチをする機会があった。熱心に聴いていた学生の中から「詩を一つ」という声がかかった。そしてアリは世界で一番短く、感動的な詩を投げかける。「Me,We (私、あなたたち)」。
監督はレオン・ギャストでアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞。(真)
