ブルターニュの端にあるポンタヴェンは、風景の美しさと民俗衣装の残る土地柄で、19世紀末から20紀初めにかけて多くのアーティストを惹きつけた港町だ。一番のみどころは、1985年に開館したポンタヴェン美術館。手狭になったので3年かけて増築・改装し、3月26日に新装オープンした。旧美術館の建物は、アーティストたちが滞在し、料理ともてなしの質で評判の高かった「ホテル・ジュリア」だった。この町に滞在したアーティストたちの総称で、狭義ではポール・ゴーギャンと彼と交流のあった若いアーティストたちを指す「ポンタヴェン派」の作品がコレクションの中心だ。
常設展は、戸外で写生する画家たちを描いた絵や、民俗衣装をつけた女性像で始まっている。ブルターニュの風物に魅せられたパリのアーティストたちの気持ちが伝わってくる。ゴーギャンは主に素描が展示されているが、それを補うかのように、3年限定でオルセーから借りた、雪の重みが伝わるような冬のポンタヴェン風景がある。ポンタヴェン派の代表的な作家、ポール・セリュジエの「豚小屋」は、床の藁と豚の黄色と、小屋の青の対照が美しく、夢の中の風景のようだ。後ろ向きの女性の上半身が切れている構図が斬新だ。
展示室の壁の色には、美術館にしては珍しく深緑や紫が使われている。セリュジエが1888年にこの地で描いた、ポンタヴェン派の重要な作品の一つ「タリスマン」(オルセー美術館蔵)の色彩を再現したものだという。
そして小さな「日本」を発見! 北斎、豊国の浮世絵コーナーだ。それに呼応するかのように、庭園には椿とモミジが見える。「ポンタヴェン派に影響を与えたジャポニズムへのオマージュです」と、改装を担当した建築事務所「アトリエ・ド・リル」のアルク・ケレンさんは言うのだが、ケレンさんも気が付かなかったのは、館内にあるシャルル・フィリジェの抽象的な風景画「岩の多い風景 ルプルデュ」の造形を庭園にうつし替えた庭が段になっており、棚田そっくり、そして庭に面した窓の日よけが格子戸そっくりなことだ。意図せずして日本的な要素が加わった。
町に出ると、海に向かう川が流れ、水車が残っている。バターたっぷりの町の特産のビスキュイやクニヤマンをほおばりながら散策するのもいい。多くの船が停泊する港をあとにして、ミニ周遊船で1時間、海に向かう旅も楽しいだろう。 (羽)
INFORMATIONS
■ 交通
パリからQuinperléまで電車で4時間。
そこからバスかタクシー(12km)で。
バスの時刻表www.viaoo29.fr/
パリから飛行機で1時間半。Lorient またはQuimperまで。そこからバスかタクシー (30km)
■ Musée de Pont-Aven
Place Julia 29930 Pont-Aven
02.9806.1443
www.museepontaven.fr
特別展込 7€ 常設展のみ 5€ 月休
9月18日までルアール家3代の画家の特別展
「ルアール家 - 印象派から神秘的写実主義へ
Les Rouart, de l’impressionnisme au réalisme magique」を開催。