レユニオン島のマロヤの女王、 クリスティーヌ・サレムに聞く。

zizique012009年10月、インド洋上マダガスカルの東方に浮かぶレユニオン島(フランス海外県)の音楽マロヤが、ユネスコ世界文化遺産として登録された。ルーレと呼ばれる、またがって上に座って叩く太鼓、カヤンブと呼ばれるサトウキビの茎を板状に張った箱を揺さぶって鳴らす楽器に合わせて、奴隷の哀歌を起源とするクレオール歌謡を螺旋階段的にトランス状態まで持っていく音楽。それはレユニオン島が植民地から海外県になっても、権力への反抗的なメッセージと、キリスト教的な視点からすれば密教的で呪術的なトランス状態の不気味さによって、演ずることを禁止されていた。言わば不法のレジスタンス音楽だったマロヤは、ダニエル・ワロ、ジスカカン、アラン・ペテルスなどの歌手によって擁護、革新され、レユニオン島民のアイデンティティーを表現する音楽として圧倒的に愛されていた。その禁止が解かれるのが1976年のことだった。今日 「マロヤの女王」と呼ばれるクリスティーヌ・サレムが県都サン・ドニの町でこの音楽に出会ったのは40年も前のことで(7歳の時だったという)、ジスカカンが大道で演奏していたのだ。以来この音楽に夢中になり、自己流でリズムや楽器を習得し(「私はすべてストリートから教わったのよ」)、12歳頃から曲を作るようになった。マロヤの演奏される場所をカバールと言い、元々は地主が奴隷たちに自由に演奏させる余興の場所であったが、20世紀後半のマロヤ復興者たちがそれを踏襲し、大道や広場や田園空き地でカバールを展開した。クリスティーヌは若くしてカバールの人気者になり、90年代から女性マロヤの第一人者と呼ばれ、2011年には国から芸術文化勲章(Chevalier des arts et des lettres)を受けている。

 アルバムはこれまで6枚発表しているが、最新アルバム”Larg Pa Lo Kor”(『あきらめないで』。2月5日フランス発売)は、それまでの作風とかなり違って、ギターが縦横に活躍し、メロディーもポリフォニーも豊富なことに驚かされる。編曲/制作者として初めて組んだ本土白人ギタリストのセバスチアン・マルテル(ジャズ、ロック、ヴァリエテにまたがる全方位プレイヤー)の影響が濃いように思うが…。
C.S.「セブ(セバスチアン)はいろいろなアイディアを持ってきて、おかげで私のやりたいことがどんどんはっきりしてきた。長年一緒にやっているダヴィッドとアリ(共にルーレ、カヤンブ、ジェンベなどのパーカッション奏者)が、今までの演奏とまるで違うって言うから、そう、それでいいのよ、もう後戻りしないわ、って。これからは私がやりたいようにやるのよ、って」

 インタヴュー中、「私がやりたいようにやる」という言葉は誇らしげに何度か繰り返され、アルバムの出来への自信が感じられた。
C.S.「私がマロヤを始めた時、自己流でギターを覚えてそれで曲を作っていたんだけど、人前でギターを弾いたことなんかなかった。でもセブの勧めでギター持って歌うようになったら、知らずに身についていたアメリカのフォークブルース的な感覚が表に現れてきた。今ではステージでもギターを弾く」

音的にアメリカ(ブルース)が時々顔を出す新アルバムのジャケット写真が、こんもりカーリーヘアーに闘士のような表情のクリスティーヌの顔のアップ。
「ブラックパワー」ですか?
C.S.「(笑)母親が若い時にこんな頭していたのを写真で見て私も似たいと思って、2006年から髪を伸ばしてこうなったのよ。もちろんアメリカの黒人運動にはとても興味があってドキュメンタリーもたくさん見たけれど、この髪は母親への思いからよ」
ブラックネスはあなたの音楽にとってとても重要なことで、マロヤのアフリカ大陸やマダガスカルのルーツに深く関係した歌を作っていますが、レユニオン島はアラブ、インド、アジアなどの他のルーツとも混血した土壌ですよね?
C.S.「レユニオンの人々はさまざまな混血を繰り返していろいろな変革を経て今日に至っている。黒人奴隷の歌を起源とするマロヤは、その間(禁止されながらも)ずっと民衆の鬱憤(うっぷん)や反抗や喜びの表現として愛されてきた。だからどのルーツを持つ人々でも島のアイデンティティーを最も深く感じる音楽なのよ」

新アルバムも、女性の地位、家庭内暴力、アルコール、ネルソン・マンデラ、複数文化の混じり合い、エイズ、愛、神などをテーマにした歌が太く力強いヴォーカルで歌われていて、ブルースギターやロックビートやポリフォニー合唱が介入するカラフルな作り。

主にクレオール語とランガジ語という二つの言語で歌われていますが?
C.S. 「クレオールは島の普通の話し言葉だけれど、ランガジは話し言葉ではなく、マロヤのトランス状態で”祖先”とつながっている時に出て来る口寄せ語なの。マロヤの中だけの言語表現ね」

レユニオンでは大多数がキリスト教徒と聞いていますが、あなたが歌う神はキリスト教の神ですか?
C.S.「島ではみんな二つ以上の宗教を持っているわ(笑)。私は洗礼を受けてキリスト教徒になったけれど、マロヤのような”邪教”を信じている。冠婚葬祭はこの宗教だけど、状況によっては違う宗教、という人たちがほとんどよ。私にとって神は人の心の中にあるもの。いたるところに神はあるのよ」

“Larg Pa Lo Kor”(あきらめないで)何も放棄するな、これがアルバムのメッセージですね?
C.S.「私がマロヤを始めた頃、誰もがこんなものは音楽じゃない、それで喰えるわけがないと言ってた。禁止され見捨てられていた音楽のために演奏家だけでなく多くの人たちが闘ってきた。その長い闘いが功を奏して、マロヤはユネスコ世界遺産になったし、私は国から芸術文化勲章を受けた。あきらめてはだめ。闘い続けることが大事」

2月6日、パリ・アランブラ劇場でのコンサートでは、マロヤのトランスミュージック的な面よりも,ギターとメロディーで歌を聞かせる面が強調され、マロヤの女王の「やりたいこと」を熱く共有したような宵だった。この力強い女性の声はマロヤをまた革新していく。

文・向風三郎

 

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