塩は、私たちにとって一番身近な食品かもしれない。料理の味をととのえるのに欠かせないのはもちろんのこと、保存食を作ったり、野菜を色鮮やかにゆでたり、その使いみちをあげていくと切りがない。前回はパンのことを書いたけれど、毎日食べるパンを作るのにも、やっぱり塩が欠かせない。
その歴史は紀元前にさかのぼる。太古の昔から、人類は工夫を重ね、さまざまな方法で塩を生産してきた。ナトリウム、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルを豊富にふくむ自然の塩は、生命維持に欠かせない重要な食材。戦国時代に起源をもつ「敵に塩を送る」という表現が日本に残っているのも、塩がそれだけ貴
重だからこそだ。
フランスでは「ギャベル」という重い塩税が長い間庶民を苦しめ、フランス革命後に廃止された。革命で王の一族は首をはねられたけれど、ギャベルの取立て役人も馬車や家を焼かれるなどさんざんな目にあった。食べ物の恨みは恐ろしい!
今では、塩は単なる調味料を超えて、それだけで個性を発揮する食材として認められている感がある。もちろん、そんな風に珍重される塩とは、塩化ナトリウムからなるサラサラした食卓塩ではなく、海塩や岩塩、はたまた湖塩などの天然塩。太陽と風、そして塩職人の手で作られる塩には適度ににがりが含まれ、しょっぱいだけではなく、深いうまみがある。精製された塩と違って塩粒を感じられるほどの大きさなので、カリッとした歯ざわりもたまらない。
フランスのスーパーではブルターニュ地方のゲランド産やノワールムティエ産、南仏のカマルグ産などの海塩、バラ色のヒマラヤ岩塩などが置いてある。粒の大きな岩塩にはミル付きの入れ物にはいっているものもあり、ガリガリとひくのがまた愉しかったりする。
高級食材店などにはハーブや海藻、はたまたトリュフが入った塩なども並んでいるけれど、本当においしいもの好きならまず手に入れたいのが「フルール・ド・セル(塩の花)」。塩田の表面をおおうこの白い「花」は、すこし湿り気をふくみ、ごくかすかに磯の香りがする。「おいしくなりますように」と、この塩をぱらりとふりかければ、どんなシンプルな料理だって立派な一皿に変身してしまう。(さ)
参考資料:『ゲランドの塩物語』コリン・コバヤシ著(岩波新書)