フランス南部のアルデッシュ県は、神秘的な天然アーチ「ポン・ダルク」の絶景で名高い。渓谷をぬって走るカヌー下りは、アウトドア愛好者の垂涎(すいぜん)の的である。だが昨年、世界最古級の壁画を誇るショーヴェ洞窟がユネスコ世界遺産に登録されたことで、歴史・文化好きにも訴える新しい魅力が加わった。
ショーヴェ洞窟は、洞窟学者ジャン=マリ・ショーヴェらにより1994年に発見された。洞窟といえば1万8千年前の壁画が残るラスコーが有名だが、ショーヴェの壁画はさらに昔、3万6千年前のもの。約2万年前に洞窟の入り口が岩の倒壊で塞がれ、奇跡的な保存状態が実現したという。この世紀の発見から20年を経て、今年4月にはようやくレプリカの洞窟「キャベルヌ・デュ・ポンダルク」が、オランド大統領出席のもと華々しくオープンした。かつてラスコー洞窟は、一般公開で壁画を痛めた。人類の遺産を守るためにも、ショーヴェ洞窟はレプリカで公開せざるを得ないのだ。
見学はガイド付きで実施される。ガイドツアーの出発は分単位で設定されるので、インターネットでチケットを購入しておこう。人気が高いので、突然行っても入れない可能性がある。オーディオガイドを使えば、日本語で説明を聞くことも可能だ。見学コースは約55分。薄暗く涼しい洞窟内は岩壁や鍾乳石が広がり、壁画ポイントにくるとガイドが説明を与える。壁画は主に動物、人間、記号の3種類。描かれた動物は約20種。野牛、ライオン、トナカイ、クマ、アイベックス(野生のヤギの一種)、ヒョウ、トナカイ、マンモスなどだ。ガイドが赤ランプを岩肌にあてながら、「これが背中、これが足…」などと説明してくれる。壁画の中には、最後まで完成されてないものもちらほら。大昔の芸術家にも飽きっぽい人がいたのかと思うと、なんだか親近感も湧く。「W」マークだけが描かれた絵には、「マンモスの牙」との説明が。口の悪い客からは「わからないわよね~」などと声があがる。だが大抵は言われてみると、「なるほど」と納得できる。一番わかりやすいのはフクロウか。背中の羽を見せながらも、顔はこちらに向いたフクロウで、首が180度回るフクロウなりの特徴を見事に捉(とら)えている。鳥が洞窟壁画に描かれるのは、非常に珍しいのだとか。
一番人気の壁画は、見学の後半に登場する動物の大群だろう。グラデーションが施され、タッチに勢いがあり、野生の風を感じる。一方で無数の人間の手形もあり、こちらはかなり意志的で生々しい。ステンシルで描かれたものが多く、どこかストリートアートを彷彿させる。他にも墨絵風、版画風、吹き絵風などがありテクニックは様々。あきらかに「人類最古のアート」と呼べるものだ。「芸術は時間軸で進化するわけではありません。最古の絵が現代人を感動させる、それが芸術の魅力です」。ガイドの言葉に素直に頷いた。
さてキャベルヌ・デュ・ポンダルクは、公共の交通機関では訪れにくい。TGVのモンテリマール駅まで列車で来て、そこからタクシーかレンタカーに乗っても30分くらいはかかる。だがアクセスが悪いからこそ、人類の遺産も守られる。できれば日程に余裕を持ち、車で周辺も一緒に観光したい。アルデッシュはまだまだ知られざる魅力にあふれた地域なのだ。例えば天然炭酸入りミネラルウォーター「Vals」の産地ヴァルス・レ・バンは、ベル・エポックを感じさせる温泉療養の地。Thermes(湯治場)には、ハマム、ジャグジー、サウナ、プールを備えたスパがあり、優雅にゴマージュやマッサージ体験が楽しめる。日本の温泉のような熱い湯の大浴場がないのが残念だが、水と存分に戯れる日本人好みの優雅な休暇を楽しめるだろう。(瑞)
■ Caverne du Pont d’Arc
キャベルヌ・デュ・ポンダルク
Plateau du Razal
07150 Vallon Pont d’Arc
13€(大人)/6.50€(10~17歳)/9歳以下は無料
料金はガイド代、併設の博物館の入館料も含む。
2月、3月、10月~11月14日 : 10h-18h
4月~6月、9月 : 10h-19h
7月、8月 : 9h-20h30
11月15日~1月 : 10h-17h
■ Thermes de Vals-les-Bains
テルム・ド・ヴァルス・レ・バン
15 av. Paul Ribeyre
07600 Vals-les-Bains
04.7537.4668
www.thermesdevals.com
■ Grand Hôtel de Lyon
11 av. Paul Ribeyre
07600 Vals-les-Bains
04.7537.43 70
テルム・ド・ヴァルス・レ・バンと目と鼻の先にある三ツ星ホテル。プールと郷土料理が味わえ美味しいレストランも併設。心を尽くしたお持てなしが嬉しい。一泊68€~