Jardin Zen 禅の庭 Erik Bordja
南仏ヴァランスから約10㎞。ローヌ河へ合流する間近のイゼール河に沿った、3ヘクタールの日本庭園〈Jardin Zen〉。葡萄畑に隣接する庭園を目の前にすると、ここがフランスであることを忘れてしまう。造形作家で造園技師のエリック・ボルジャ氏は、1973年に日本庭園造園の構想を得てから、日々変わりゆく気候と彼のアイデアを、自然のなかに映し込むように、自分の庭を育んでいる。
ボルジャ氏は1941年アルジェリアに生まれ、21歳にアルジェ美術学校を卒業後、パリにアトリエを構えた。60〜70年代のパリでは、ギャラリー Iris Clertでの個展が成功をおさめ、造形作家としてデビュー。デュビュッフェ、ニキ・ド・サンファルらと肩を並べて活躍した。しかし、77年に政府招待によって訪れた日本で観た日本庭園との出会いによって、彼の芸術家としての方向転換が始まる。「旅行前から日本への興味はあったものの、それらは自らの眼で見たものではなく、他人の眼からの情報でした。日本での経験とは、例えば庭園にたちこめる苔の香り、あるいは茶屋の蒸した饅頭 (まんじゅう)の匂い、あるいは靴の並べ方や脱ぎ方、それら空気感です」
エリックさんの日本人の友人は〈Jardin Zen〉のことを「この庭は、君の庭だ。なぜなら君の美意識によって成り立っているからだ」という。形式・様式にのっとらず、あくまでエリック・ボルジャというアーティストの作品だという。
「確かに私自身の芸術家のエゴも含めての庭でしょうね。日本の庭園のコピーをすることに興味はありません。私がこの庭を造る際、一番気をつけたのは、まず自然あり、という意識です」。日本庭園には「見立て」という概念がある。目の前にある自然をメタファーとして表現する作庭手法だ。
「人は往々に〈エリック・ボルジャの庭〉といいますが、この南仏の自然をどう見立てるか、に重点をおいています。自然がそこにあるから成り立つことなのです。日本の庭園は背後にある山、河をも含めて庭の構図となり、庭が表現の領域に達するのです。そこにある自然を無視して人工的に造りあげるものは、日本庭園ではありません。そして私が日本で見て、感銘をうけた庭の真髄をたどると、そこには必然的に「神道」の精神が見えてきます。その精神性を表現してみたくもあったのです。こういった感覚を通じて得られる表現の世界と、単に造形的に造られた庭とは違いがでるかもしれませんね」
日本庭園に必要な水、石、植栽、景物の四大要素を満たすために、燈篭(とうろう)は京都の職人に発注し、フランスまで輸送してもらうという。庭園は一般開放されているが、私たち日本人にとっては身近でも、日本庭園に慣れていないフランス人見学者に対しては様々な注意が必要だそうだ。
「例えば、枯山水に影響を受けて造った石庭に入り、水に見立てた砂利の上を平気で歩く人、苔の部分に踏み込んだ人、飛び石の上で滑った人もいます。ですから様々な工夫も必要となります。現在この庭では2人の庭師が働いています。研修に来る人は、やがて専門の庭師として巣立ってゆくのです」 。南仏の他に、コルシカ島、ローザンヌ、パリ、メゾン・シャネルなどプライベートの日本庭園も手がけている。
「庭を造るにあたり、一番の師は、〈観る〉ということです。観察し、体全体で感じ取ること。私は作庭することにより、精神的世界を体現します。日本庭園という存在は、芸術的表現であるといえるのです。この庭を訪れる人々は、この空間で、何時間でも庭の中にいる自分と向き合って下さい」
庭師に手入れされ、毎日表情が変わるこの庭、永遠に続く彼の作品と言えるだろう。
Jardin Zen d’Erik Borja
住所 ● 530 Chemin du jardin zen 26600 Beaumont-Monteux
TEL ● 04 7507 3227開園時間 ● 月-金 9h-12h/14h-17h (週末は不定期。Facebookなどで確認を) 料金 ● 大人8€/団体5€
交通 ● SNCF パリ・リヨン駅からValence TGV駅 (Valence Villeではないので注意)下車。駅から約10㎞。 サイト● www.erikborja.fr/
7月5日(日)
Jardin Zen日本庭園内で5人のミュージシャンによるコンサートが開催されます。3ヘクタールの庭園を歩きながら聴く、庭に佇む自然と楽器の音世界。(雨天決行)
演奏:仲野麻紀 (sax) Yann Pittard (oud) Amina Mezaache (fl) Thomas Ballarini (perc) Gaston Zirko (perc)