日帰りも、泊まりも、住んでも良しの町。
年々物価が高騰するパリを離れ、地方都市から遠距離通勤する人がいる。パリまで200km、TGVで54分、不動産価格はパリの4分の1というルマンの町にも、遠距離通勤者が1000人ほどいて、「ナヴェッター navetteurs」と呼ばれている。私も昨年ナヴェッターの仲間入りをし、毎日が小旅行のような気分を味わっている。
まずルマンで思い浮かぶのが、24時間レース。期間中の6月中旬は世界中からレース好きが集まり、サーキット場の熱気が町一帯に広がる。自動車以外に、バイク、ローラーブレード、自転車、トラックの24時間レースも4月から10月の間に開催される。昨年は2年に一度のルマンクラシックもあり、隣接されたキャンプ場で、滞在しながら観戦を楽しむ家族連れやカップル、自慢のクラシックカーを自ら運転しルマン入りするコレクターなどに混じり、文字通り24時間レースが行われるという斬新なコンセプトと、その根強い人気を初体験した。ルマンクラシック期間中は旧市街のあちこちでクラシックカーを見かけ、まるで20世紀初期にタイムスリップした気分を味わえる。
旧市街のシンボル、サンジュリアン大聖堂を見上げると、そのボリュームに圧倒される。7、8月の〈La Nuit des chimères〉の時期は特に、プロジェクションマッピングにより立体感がさらに強調され、まるで夜空でカラフルな大聖堂がゆっくり呼吸しているようで幻想的。
天気がよく暖かい週末は、トラムウェーT2で終点エスパルEspalへ。駅を降りてすぐ、Arche de la Natureという450ヘクタールの広大な森が広がる。入り口で自転車を借りてサイクリングがおすすめ。森に溶け込むようにひっそりたたずむエポ修道院は、音楽・アートフェスティバルの会場としても市民になじみの場所。修道士の共同大寝室を改造したコンサートホールの音響は抜群で、手入れされた中庭の芝生の寝心地も最高だ。
街の中心レピュブリック広場は、カフェやレストラン、ブティックが集中する。必ず立ち寄るのが、パティスリー〈Takayanagi〉。抹茶、ゆず、ほうじ茶、黒ごま、すだちなど、伝統的なフランスのお菓子に調和する和の味に心落ち着く、貴重なお店だ。
日曜の朝は、早起きをして旧市街のふもとに立つジャコバン広場のマルシェへ。買い物を終え、カフェのテラスで「マンソーmanceau(ルマン住民)」にまぎれてほっと一息つくと、日々の長い移動時間やパリの喧噪を忘れ、やっと「マンセルmancelle(manceauの女性形)」になることができる。(貴)