わが家では祖父が釣り好きだった。阿賀野川に出て釣りができる、三人乗りくらいの釣り船も持っていて、秋のシーズンになると、日曜には決まって、暗いうちからハゼ釣りに連れて行ってもらったものだ。祖父のみごとな櫓(ろ)さばきで釣りのポイントに着くと、阿賀野川に朝陽が映ってきれいだったことが、今でも思い出される。ハゼは子どもでもよく釣れるから楽しい。入れ食いだったりする。父も同行していると百尾以上は軽い。
それを家に意気揚々と持って帰るのだが、わが家では、その魚をさばいて料理するのは男の役割になっている。母は魚をさばくのが嫌いだったし、自分で釣ってきたものは自分で始末して、という暗黙のきまりがあったのかもしれない。
「落ちハゼ」と呼ばれる大きなハゼは、丸ごと塩焼き、小さいものは頭付きで甘露煮だから簡単だけれど、中くらいのものは頭をとって開いて、中骨を切り取ってテンプラだから、台所はちょっと戦場のような忙しさになってしまう。祖父は開くのが上手、父はテンプラ名人。揚げ立てを次から次へと食卓に出して味わうおいしさ、楽しさ!
ブルターニュの港町で息子と、今回のレシピで使ったホウボウを何尾か釣ったことがある。やはり意気揚々と持ち帰ったのだが、女性たちは「魚屋で買ったんでしょう」と信じてくれない。くやしかったけれど、おろしてソテーにしたら、「おいしい!」だってさ。(真)