エピナルでのんびりして、ミルクールへ。
エピナルは、フランスでも一番緑の多い町として知られている。その町の真ん中を、モーゼル川が流れ、右岸には緑の丘が迫っている。川幅は思ったよりも広いが、水源のヴォージュ山脈がすぐそこなので、その水は谷川のように清冽(せいれつ)で、魚たちが泳いでいるのが手にとるように見える。この川に沿って広がる明るさが、この町の宝だ。そのモーゼル川の両岸を行ったり来たり、ゆっくり散歩したい。エピナル版画が陳列されている美術館もこの川の右岸だし、その向かい岸にはバラ園がある。その先には、小さな観光用などの船がつながれている港があり、公園もあるから、天気のよい日曜にはエピナル市民が集まる。〈Restaurant du Port〉でお昼ごはんを食べたが、イカや小魚の揚げ物がおいしかった。
夜になるとモーゼル川や、主に右岸にある歴史的な建物がライトアップされて、あざやかに浮かび上がり、ヴォージュ広場のカフェのテラスは若者たちでにぎやかになる。
翌日は、エピナルから35キロのところにあるミルクールへ。1625年以来フランスの弦楽器ならここ、と定評のある工房がいくつかあるからだ。中でも名人と誉れの高いジャン=ジャック・パジェスさんの工房を訪れてみた。
「10年近くパリ、ドイツで修業してからこの町に来て、弦楽器作りでは並ぶ者がないと言われていたジャン・ユルリさんの工房に入った。時には一日10時間にも及ぶ仕事だったけれど、楽器作りのいろいろな過程をやらされ、修復のために持ち込まれる名器と対話しながら学んでいった。この町には弦楽器作りの学校があるけれど、週18時間の授業ではあまりに不十分だ。ヴァイオリンやチェロの命は木。裏板や側板は、東欧からのカエデで、表板は、軽い割には強いヨーロッパトウヒ(épicéa モミの木に近い)。この辺にもある木だが、ジュラ山脈の高い所にそびえている、直径1メートル近い木が、値は張るが木の質も緻密で最高だ。ストラディバリウスはドロミテ山地のトウヒで作られていた。弦楽器専門の木材業者から、いい木があるという知らせを待っている。それを7、8年この工房で乾燥させ、その銘木を削りながら自分だけの音を持った楽器に作り上げていくのは、創造の世界だ」
ここにも清らかな川が流れているが、その脇にある、この町ご自慢のMusée de la Lutherie(弦楽器製作博物館)も忘れずに訪れてみたいものだ。(真)
エピナルの町の中心にある ヴォージュ広場。
チェロのネックの部分を 削っているパジェスさん。
弦楽器製作博物館に 立っている巨大なチェロ。