『四十五人』(1847年)は、アレクサンドル・デュマが物した宗教戦争3部作の最後を飾る歴史小説。前作ですでにお馴染みの登場人物が現れ、読者はまるで昔の友人に会ったかのような気持ちで読み進める。この作品中で、以前にも増して食の喜びを追求しているのが、よく肥えたゴランフロ修道士。「もし、この堂々とした修道院院長が、自らがそう主張するように出世街道にのっているとするなら、それは食卓に並ぶ料理の内容と料理の科学の進歩においてであった」
例えば、修道院に重要な客がやってきた日、ゴランフロが「兄弟」に作らせたのは、雄鶏のとさか入りのスクランブルエッグ、トリュフの香りがするシャンピニオンのファルシー、マディラワインで風味をつけたザリガニ、ドライシェリー酒で煮たピスタチオ入りのハム、鶏やジビエの内臓や豚肉を飼料にしてよく肥らせたウナギのフライ。麻のクロスがかかったテーブルでこんな食事を楽しむゴランフロと客は、ワインを何本も空ける。サービスには、やはり「兄弟」のソムリエがあたり、まるで高級レストランでの一幕のよう。
この食い意地の張った人物は、よっぽど読者のお気に召したよう。この時代の菓子職人は、6角形の巨大なババ(発酵させた生地を焼いたケーキ)、料理人は、蒸し煮にした牛肉に紫キャベツ、ソーセージ、ジャガイモを合わせた料理を発明し、それぞれ「ゴランフロ」と名付けたという。デュマもこの事実にまんざらではなかったらしく、「貴族的、つまり美食家の地区、フォーブール・サンジェルマンのある菓子店で、パリのエレガントな食卓で重宝されているパティスリーが作られている。そして、そのパティスリーは、私の小説に出てくる登場人物名である『ゴランフロ』と名付けられている」と、語っている。(さ)