ヒッラ・メダリア監督のドキュメンタリー『Dancing in Jaffa』の舞台となるヤッファは、イスラエルにあるユダヤ人とアラブ人が居住する地区。ここで生まれたピエール・デュレンヌという初老の紳士が、60年ぶりに生まれ故郷を訪れる。
社交ダンスのプロとして輝く経歴を持つ彼の夢は、この地で子供たちにダンスを教えること。それもパレスチナ人とイスラエル人のカップルが一体となって踊る社交ダンスを。彼には信念がある。身体を寄せ合うことで生まれる相手への理解と信頼。理想主義とも思える彼のチャレンジは成功するのか?
まず彼はこの地区にあるパレスチナ系とイスラエル系の5つの学校へ赴き先生と生徒を説得する。子供たちの反応は素直で面白い。異性と手をつなぐなんて死んでもイヤだという年齢の子たち。ましてや「敵」の子と。絶え間ない紛争で肉親が負傷したり亡くなったりというケースも多い。確信犯(?)であるピエールは、そんな抵抗にも負けず、彼らの信頼を一歩一歩勝ち取ってゆく。パートナーとなった相手の子の家に遊びに行ったり、すねていた子が伸び伸びと成長し始めたり、ピエールの試みは実を結ぶ。
この子たちが大人になる頃、この地域に和平が訪れていることを願わずにはいられない。それがかなわずとも、少なくともこの子たちは、相手を頭ごなしに押しつけられた概念で憎んだりはしないだろう。小さな個人の小さな努力が積み重なればきっと世界は平和になるなどと、私もピエールに、そしてこの映画に触発されてしまった。読者の皆さんも、この映画を観て、よい意味で感化されて欲しい。(吉)