コンペ作品は全18作。そのうちすでに最高賞パルムドールを受賞しているのは、ダルデンヌ兄弟(ベルギー)、是枝裕和(日本)、クリスティアン・ムンジウ(ルーマニア)、リューベン・オストルンド(スウェーデン)の4組(5人)。(国の名前は監督の国籍)
他のコンペ組で気になる名前を挙げたい。まずは8年ぶりにカンヌ復帰の大物デヴィッド・クローネンバーグ(カナダ)。新作『LES CRIMES DU FUTUR』に出演するのは、ヴィゴ・モーテンセン、レア・セドゥ、クリステン・スチュワートと華やかな面々。特にレア・セドゥは昨年カンヌで出演作が3作もコンペに選ばれた(同じ俳優を使い過ぎかと思うが)ものの、コロナ陽性となり現地入りが叶わなかった。今年こそはレッドカーペットを歩けそうだ。
ロシアのセレブレンニコフ現地入り?
昨年は『インフル病みのペトロフ家』でコンペに選ばれたキリル・セレブレンニコフ(ロシア)だが、今年も新作『TCHAÏKOVSKI’S WIFE』が2年連続でコンペ入りをする快挙。ウクライナ侵攻を受け、世界でロシア文化排除の動きが見られるのだが、露政府からの弾圧に屈せず活動を続ける監督たちを支援するカンヌは、今年もセレブレンニコフの新作を選ぶことで作家擁護の立場を表明している。
彼は自宅軟禁や渡航禁止令が終了した後、この不安定な情勢下でロシアから脱出することに成功した。7月に開催の世界最大の演劇祭、アヴィニョン演劇祭はすでに参加を表明済み(もともと演劇の演出家である)。カンヌにはこれまで前二作がスマホ越しなどのリモート参加だったが、今年こそは三度目の正直で現地入りが叶うだろう。
日仏で回顧上映が行われ、シネフィル界隈で人気が沸騰したケリー・ライカート(アメリカ)や、『ジャスト6.5 闘いの証』がフランスで熱狂的なファンを生んだサイード・ルスタイ(イラン)、2018年の「ある視点部門」出品作『Girl/ガール』で世界的に注目されたルーカス・ドン(ベルギー)らのコンペ入りも気になるところ。個人的にはこの辺りが台風の目となってほしい。
特にルーカス・ドンはまだ長編2本目だが、早速コンペ入りを果たしている。昨年のルール改正で「ある視点部門」は長編1、2本目の作品により重きを置くようになっており、順番的にはまだ「ある視点部門」でも良かったと思うが、見事コンペ入りを果たしているのだ。これは昨年、まだ長編2本目ながらコンペ入りし、見事最高賞パルムドールを奪取した『チタン』のジュリア・デュクルノーの動きと少し似ている。カンヌが一本釣りをしたくなるほどインパクト大の作品なのかと、ついついヤマを張りたくなる。
早川千絵監督『PLAN 75』が「ある視点部門」へ
他にも言及するべき監督は多いが、「ある視点部門」に選ばれた早川千絵監督の存在が目を引く。2014年、短編『ナイアガラ』がシネフォンダシオン(学生映画部門)に入選しており、カンヌとは繋がりが深い。作家を育成し応援するカンヌらしい選択だ。今回出品される映画『PLAN 75』の主演は倍賞千恵子だが、ちょうどパリでは一年間に渡って、山田洋次監督『男はつらいよ』の全シリーズ50作が一挙上映中である。パリ日本文化会館の大ヒット企画となっており、寅さんの妹“さくらさん”はすでに人気者。『Plan75』がフランスで注目を浴びるのに絶好のタイミングなのだ。
最後に苦言をひとつ。このカンヌのラインナップ発表の記者会見には、当然ながら毎回質疑応答の時間が設けられてきた。しかし今年は時間が十分あったはずなのに、なぜか取りやめとなった。スタッフの一人に尋ねると、「急きょティエリー・フレモーが決めた」とのこと。あらゆる意味で過渡期にある現在、カンヌには丁寧に説明するべき懸念材料は山ほどあるのでは。メディアパートナーや会長の交代劇、遅れる審査員長選び、ウクライナ侵攻を巡る映画人支援と映画祭の政治介入問題、コロナ対策や大統領選との絡み、もちろん定番のネトフリやジェンダー問題など争点は枚挙に暇がない。
しかしラインナップの発表後、まるで公開質問を拒絶するかのように会見は終了、目の前でシャッターを下ろされてしまった。これではジャーナリストを会場に呼んで会見を開く意味などない。映画祭の不可解な態度に不安を感じたひとコマだった。(瑞)
☞次ページ コンペおよび他部門のラインナップ