2022年5月17日、カンヌ映画祭が無事開幕となりました。昨年はコロナ禍の影響で史上初の7月開催となりましたが、今年は通常の時期に戻りました。初日から気持ちの良い快晴!今年のポスター(写真下)に使われているピーター・ウィアー監督、ジム・キャリー主演の『トゥルーマン・ショー』(1998)の“青”にも負けません。
さて、開幕前日の16日は映画祭ディレクターのティエリー・フレモーが記者会見を開きました。昨年から映画祭チケットの予約はオンライン予約制に完全移行しましたが、システムがうまくいっていないことに言及。フレモーによるとそれはサイトの問題ではなく、サイバーアタックを受けたといいます。
ジャーナリスト用には本日から古い予約サイトを復活させることで状況が改善されましたが、映画バイヤーさんたちは、新しいサイトを使用し続けているようで、相変わらず予約が難しい状況のようです。
本日の話題の一つが、ジャン・ユスターシュ監督の不朽の名作で、1973年のカンヌ映画祭で審査員特別グランプリを受賞した『ママと娼婦』の4K復元版の上映です。復元された旧作を紹介するカンヌ・クラシック部門のオープニングを飾りました。通常、この部門の会場は452席のSalle Bnuel ブニュエル上映室ですが、今回は『ママと娼婦』の人気に応えるように1068席を誇る大会場ドビュッシー上映室での上映が叶いました。
上映前には主演俳優の一人、フランソワーズ・ルブランが挨拶。「あなたが『ママと娼婦』について読んだ全てのことは忘れてください。そして今日、全く新しい目で見てください」。
フランス映画の最良の一本でありながら、権利の問題などもこじれ、上映の機会が少なかった本作ですが、この復元版の完成とともにフランスでは6月8日に劇場公開が決定しました。ぜひこの機会にご鑑賞を!
…と、偉そうに書いてしまいましたが、筆者はカンヌでこの記念的な修復版上映には立ち会えませんでした。なぜなら、同じ時間帯にカンヌ映画祭の審査員メンバーの記者会見があったためです。とかく内容が盛りだくさんにつき、重要な上映やイベントの開催時間が重なることが多く、ジャーナリスト泣かせのカンヌでもあります。
カンヌ映画祭の審査員ですが、今年はその決定に一悶着がありました。カンヌが審査員長を打診したペネロペ・クルスは撮影などでNGに。その後イランの巨匠アスガー・ファルハディに内定しかけましたが、今度は監督に盗作疑惑が持ち上がりました。このため、4月の記者会見でも審査員メンバーの言及はありませんでした。
困ったカンヌが白羽の矢を立てたのが俳優のヴァンサン・ランドン。彼は『ティエリー・トグルドーの憂鬱』で最優秀男優賞を受賞済みであり、昨年も最高賞パルムドールを受賞の『TITAN/チタン』の出演で鮮烈な印象を放つなど、カンヌへの貢献も甚大。実績があり映画界でも人望が厚いランドンの審査員長は、やや渋めに見えますが、適役と言えるでしょう。
一方、渦中の人ファルハディですが、今回は審査委員長ではなく、メンバーの一人ということで手打ちに。盗作疑惑は裁判中でありますが「推定無罪」ということでしょうか。ジャーナリストがその点について質問すると、ファルハディは「正しくないことが多く報道されているので修正されるべき」とした上で、釈明の弁を長々語りました。ところが、ペルシャ語とフランス語の同時通訳が重なって流されたため、フランス語圏のジャーナリストには内容がよくわからず、あとで「よくわからなかったけど、長々言い訳していたみたい」と解釈しました。
実は個人的に気になっていたのが、ファルハディの隣の隣にいた、これまた疑惑のデパート(公金横領など)のラジ・リ監督でした。ファルハディの話があんまり長いので、そのまま会見は終了しましたが、ラジ・リは自分に質問が飛ばずにさぞホッとしたことでしょう。
そして本日はこれから上田慎一郎監督の大ヒット作『カメラを止めるな』のフランス版リメイク『Coupez!』が、開幕上映作品されます。こちらの件はもう長いので後日に。