今冬、展覧会を一つしか見に行けない人には、迷わずこれを勧めたい。他の展覧会が吹っ飛んでしまうほどの迫力と美しさで、群を抜いている。
ブラジル出身の在仏写真家セバスチャン・サルガド(1944-)は、世界100カ国以上を回り、人々の写真を撮り続けてきた。飢餓、農村人口の都市流出、死などをテーマにした社会的な写真だが、「感傷的」、「劇的すぎる」と批判する人もいる。そう言われるのもわかる気がするが、そんな批評が小さな粒となって消え去ってしまうような器の大きい作品を撮る人である。
2004年に始まったプロジェクト『Genesis 起源』は、これまで人間だけを撮ってきたサルガドが、初めて動物に挑戦したものだ。外の世界とあまり接触せず、アフリカ、北極圏、オセアニア、ブラジルなどの、動物と伝統文化を保っているコミュニティの人たちが主人公である。ガラパゴス島で、島名の元になったゾウガメを撮ったとき、「動物も、人間を撮るのと同様に、そのテリトリーを尊重し、了承を得てから撮る」ことを学んだという。
水の中にいるのに宙に浮いているようなカイマンの群れ。夜の闇の中でネオンのように光る多くのカイマンの目。万里の長城のような尾根に延々と続くペンギンの群れ。一列に並んで順番に海に入るペンギンたち。恍惚(こうこつ)の表情で伴りょに頭をもたせかけるアホウドリ。クジラの尾は鋼鉄のような厚みがあり、海水を滝のように滴らせながら柔らかくしなっている。
コロラドの台地は象の足のようであり、カナダの雪山のすそ野は彫刻刀で刻みをつけた木版画のようだ。大きな葉を敷き詰めた場所に集まったアマゾンのゾエ族の女性たちは、熱帯の妖精であるかのように小さく、軽く、可愛らしい。
地球上のすべての生物は家族なのだという思いが浮かぶ。サルガドはブラジルの緑化にも取り組んでいるが、それを知らなくても、彼の写真を見れば、地球の自然と生物の美しさに目が開かれ、環境への意識が自然に変わってくるだろう。被写体となったすべての生物と自然に宿る神々しさに、無宗教の人でも神は存在すると思うのではないだろうか。見た後で心に愛が広がる、希有な展覧会だ。(羽)
Maison Européenne de la photographie : 5-7 rue Fourcy 4e
1/5迄(月火休)。サルガド展は通常1〜1.5時間待ち。