デュマ、食の物語 -7-

 『岩窟王』という名でも知られる『モンテ・クリスト伯』は、デュマの代表作のひとつ。新聞小説として1844~45年に発表され、空前の人気を得た。1815年の王政復古以降の25年間を描くこの物語の魅力は、生き生きした人物描写とリズムある展開。今までに何度もドラマや映画にもなり、現代でもフランス人に愛される快作だ。
 物語が始まるのは港町マルセイユ。20歳に届こうかという若き航海士のエドモン・ダンテスが、3カ月ぶりに港に帰ってくる。親孝行のエドモンが真っ先に向かうのは、日々飲むワインにもこと欠くような貧乏暮らしの父親のもと。その後、婚約者である彼を待ちわびている少女メルセデスの家へと出かけていく。そして、翌日にはすでに婚礼の披露宴が行われることに! エドモンの父親が言うとおり、「昨日の朝着いて、今日の三時には婚礼をする。船乗りだけでさあ、こんなに手まわしよくやれるのは」(山内義雄訳)
 披露宴の食卓に上るのは、「殻の輝く蝦(えび)」、「薄紅の貝にはいったプレール、とげとげしいいがで包まれた栗を思わせるうに」、「南仏の食通にとって、北の国の牡蠣にくらべてはるかにまさるといわれているめくら貝」といった「漁師たちから海の果実と呼ばれているもの」。港町ならではのこんな豪勢な食卓に、「トパーズ色の葡萄酒」も手伝って、参会者たちはすっかり陽気になる。アサリ類のめくら貝(clovisse)がカキよりおいしいかはともかく、後年、デュマが『料理大事典』の中でも書いている通り、ウニは南仏産が最も上質らしい。朝、海から上がってきたばかりのこんな新鮮な果実は、何よりのごちそうだ。
 想像するだにすばらしい豊かな食卓の描写があるからこそ、この後にエドモンにふりかかる災難が、刑務所の中で食べさせられる黒パンが、余計に残酷に見えてくる。(さ)

 

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