冬の北海、小エビ、アンソールの家。
冬の北海が見たくなり、港町オステンドまで出かけてみた。
駅から出ると横なぐりの雨だ。この町で生まれ、この町をこよなく愛する歌手アルノーが、レオ・フェレの名曲『Comme à Ostende オステンドのように』を熱唱している。「オステンドでもどこでも、町に雨が降ると、こんなふうに生きる価値があるのか、と自問自答してしまう♪?」
気をとり直して、小さなカフェに飛び込んでコーヒーとjeneverと呼ばれるジンを頼むと、隣のテーブルでビールを飲んでいた男が、「そうでなくっちゃ!」と声をかけてくれた。そのマルクさん、昼前だったがすっかりでき上がっている。「6歳の時にオステンドに引っ越してきて、66年経った。もうこの町から離れられないな」
元気が出たので、波止場にある魚市場へ。オステンドの沖合いで漁獲された直後、船上の大がまで海水を使ってゆでられる小エビ、crevettes grisesがお目当て。あるある! どのスタンドでも山積みだ。さっそく300グラム量ってもらった。殻をむくのももどかしくほお張ると、パリで売られているcrevettes grisesでは決して味わえない甘さが広がる。以前来た時は、突堤の先に向かって歩きながら食べたのだが、殻を放り投げると、ウミネコがみごとにキャッチしてくれたものだ。
お昼は波止場に並ぶレストランの一つで、以前はヨーロッパにその名をとどろかしていたというオスタンド産のカキと小さな舌ビラメsoletteのムニエルに舌鼓。soletteは、アルノーがこの方が味がいいと言っていたように、中骨付きのままだった。
午後は〈Ensorhuis アンソールの家〉へ。19世紀末から独自の画風を展開していったジェームズ・アンソールは、晩年の30数年間を、貝殻商だったおじさんの家で過ごした。その家が1970年代に修復されたもので、彼の作品に登場する仮面やがい骨が所狭しと並んでいる⑤。その後は、がんばって近代美術館にまで足を伸ばした。
オステンドでいち押しのビールバー〈Café Botteltje〉に出かけ、夕食は名物の牛肉のビール煮。飲み物は、好物のビール〈オルヴァル Orval〉。甘みがほとんどなく、その軽い渋みは通好み。
翌朝、雨は止んだが、海岸に出ると吹き飛ばされそうな強風。夏は海水浴客でにぎわう砂浜に人の影はなく、ウミネコが乱舞していた。(真)
オステンド Ostende
●観光局
Office du Tourisme d’Ostende : Monacoplein 2
+32 (0) 5970.1199 www.toerisme-oostende.be
●町中の移動
駅から中心地まで歩いて10分。 天気がいい時は、レンタルサイクル(18時間利用で3€)で海岸線を走りたい。
●美術館ほか
– Ensorhuis(アンソールの家)
10h-12h/14h-17h。月休。5€/2.5€(12〜15歳)。12歳未満無料。
Vlaanderenstraat 27 +32 (0) 5950.8118
– MU.ZEE(近代美術館)
アンソールの初期の作品がある。10h-18h。月休。
Romestraat 11 Mariastraat 38 +32 (0) 5950. 8118
– Marché aux poissons(小さな魚市場)
悪天候の時をのぞく毎日6h〜18h。Visserkaai
●レストラン
– Au Vieux port
魚料理! 魚市場の向かい。12h-15h/18h-22h。月火休。
Visserkaai 32 +32 (0) 5970.3128
www.auvieuxport.be
– Café Botteltje
300種類以上のビール。牛肉のビール煮carbonade。月 16h30-01h 、火〜日 11h30-01h、 日12h-19h30。
Louisastraat 19 +32 (0) 5970.0928
– Brasserie du Parc
アールデコの美しいカフェ。8h-22h 。無休。
Marie-Joséplein 3 +32 (0) 5970.1680
●ホテル
– Hôtel Louisa★★★
小さな路地の静かなホテル。S 60€/W 90€。朝食11€。
Louisastraat 8B +32 (0) 5950.9677 www.hotellouisa.be
漁船の甲板に エビをゆでる 大がまが 見える。
小エビ、crevettes grises
さっそく300グラム
カキと小さな舌ビラメsoletteのムニエル
仮面の顔の表情はアンソールが描いた。