ジョルジュ・サンドの食卓から  9

 『笛師の群れ』(1853年)は、サンドが得意とする田園小説のひとつ。18世紀後半のフランス中部の美しく厳しい自然を背景に、子供たちが成長して恋を育んでいく様子が鮮やかに描かれる(そのうちの一人はサンドの恋人だったショパンがモデルといわれている)。
 舞台は、サンド愛好家にはお馴染みのベリー地方、そして深い森の中のブルボネ地方(ともに現サントル地方)。この地方の住民は木こりやラバ引きとして暮らしており、その風習は、平地で作物を育てるベリーの農民とは異なっている。毎日の食風景にしてもしかり。ベリー地方から友人ユリエルを訪ねて森に入ったエチエンヌは、そのあまりの質素な食風景に驚きを隠せない。「平常、ユリエルの家族はパンとチーズ、塩漬け肉だけで1日1度の食事を済ませていた。これは吝嗇(りんしょく)や貧困のせいではなく、単に簡素な習慣から来るものだった。この森の民は、僕たちのように温かい物を食べたり、女たちを朝から晩まで台所に立たせるようなことは、無駄で面倒なこととしていた」。もちろん、遠方からの客人を迎えるときは例外で、ローストした肉やサンセールの美味しいワインをふるまい、心からもてなす。そんな時、笛吹きの達人で、民のリーダー的存在であるユリエルの父は、日頃から労働を共にする仲間たちも家に招くことを忘れなかった。
 こんなくだりからは、ベリーにあるサンド宅では、使用人が主人とほぼ同じものを食べていたという逸話を思い出す。女主人の人柄にふれた御者や料理女の中には、30年以上も仕え続けた者も。サンドを育てた祖母の人柄にもよるのであろうが、サンドの乳母などは、結婚して遠方に住むようになった後も、毎年嫁ぎ先でとれる果物を届けにきたという。この作家の本と人生は、分けあうことの尊さと愉しさを静かに語りかけてくる。(さ)

 

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