1900年から現代にいたるまでの視覚芸術とダンスの相互の影響を見せる展覧会だが、ダンスが主で、視覚芸術が従になっている。美術に興味がある人には物足りないかもしれないが、ダンスの傑作や伝説的な作品が一挙に見られるので、今月のおすすめとしたい。気に入った作品を全部見ていると、楽に4時間はたってしまうので要注意。
最初の傑作は、1912年にパリのシャトレ劇場で上演されたニジンスキーの伝説的な『牧神の午後』を再構築した公演のビデオだ。オランジュリー美術館で始まったばかりの『ドビュッシー展』には、ニジンスキーのオリジナルの公演の写真と舞台装置デザインの下絵が出ている。こちらと合わせて見るとさらに当時の雰囲気がわかり、より興味深い。ポンピドゥ・センターには、「円は完ぺきな動きだ」と言ったニジンスキーの抽象デッサンもある。
男性グループと女性グループが拮抗(きっこう)し、最後に一人の女性が生けにえになるピナ・バウシュの「春の祭典」、裸の群衆が紙をつかんで持ち上げる動作を繰り返すアンナ・ハルプリンの『Paper Dance, Parades and Changes』も、ダンス史上に残る画期的な傑作だ。
キルヒナーやノルデといったドイツ表現主義の画家たちは、ドイツのモダンダンスの草分け、マリー・ヴィグマンと親交があった。ヴィグマンとその弟子が踊る姿を描いたノルデの水彩からは、原始のエネルギーが感じられる。そのヴィグマンが仮面をつけて一人で踊る『魔女の踊り』は、今見ても新鮮だ。
ヴィグマンが師事したハンガリー生まれのルドルフ・フォン・ラバンは、彫刻を学んでからダンスを始めた人で、ダンスの革新者であることが見てとれる独自の理論をデッサンに残している。
美術とダンスの関係は、マーサ・グレアムの舞台に使われたイサム・ノグチの彫刻、ダンスの動きを抽象で表したカンディンスキーのデッサンなどからもよくわかる。
しかし、会場の終わりのほうで疑問が出てきた。ジャクソン・ポロックのアクション・ペインティングや、モデルの体に絵具を塗りつけて紙の上に乗せたイヴ・クラインのパフォーマンスになると、これはもうダンスではない。スペクタクルである。最後でごまかされた気分になって残念だった。(羽)
ポンピドゥ・センターで4月2日迄。火休。
写真:Adolphe (baron) De Meyer
Nijinsky à mi-corps, tenant une grappe de raisins, 1914
© Collection Musée d’Orsay, Paris