プルーストの味を求めて –12

 『失われた時を求めて』の語り手は、アスパラガスを観察して美しい女性を思い起こすような少年である。そんな感受性を持った彼の初恋の相手は、社交界に名前をはせた名士であるスワン氏の娘、ジルベルトだった。彼女が美しいといううわさを聞いていた少年は、ある日シャンゼリゼの公園で彼女に出会ってからというものの、すっかり恋に落ちてしまう。それ以来、ジルベルトが公園に来るかどうかが、語り手の一番の関心事として詳しく語られていく。
 やがて、語り手は「特殊の甘美な魅力」(井上究一郎訳)に満ちているスワン家の高級アパルトマンに招かれ、グッテ(午後のお茶)をするようになる。まるで「妖精の国」のようなその空間では、ジルベルトはまるでその国のお姫様のよう。彼女は、サロンに集合した育ちの良い子供たちを「レンブラントの筆になるアジア風の神殿の内部のようにほのぐらい食堂」に案内する。そこにはチョコレート・ケーキやプチ・フールが並び、花模様の入ったグレーの小さなナプキンが添えられている。語り手に好意を寄せるジルベルトは、とっておきのひときれのケーキを語り手に供したり、得意気に紅茶をいれたりする。
 母であるスワン夫人も、ジルベルトが今度は「あなたのお好みにしたがって」紅茶をいれるからまた近いうちに来るようにと声をかけるのだが、この母娘は、そろって彼の繊細な消化器官のことを知らなかったと見える。中毒性呼吸困難に陥ることも多かった病弱な語り手は、実は医者には牛乳以外を飲むことは禁止されていたのだ。それでも、ジルベルトに嫌われたくないあまり、紅茶をすすめられるまま何杯もお替りする語り手。なんとも苦しそうな、初恋の思い出です。(さ)


 

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