カナダの新鋭、グザヴィエ・ドラン監督(21歳)は、昨年のカンヌ映画祭・監督週間で初長編『J’ai tué ma mère 僕は母を殺した』を発表、注目を集めた。題名ずばり、この映画は監督演じる青年が母の重圧と葛藤する話だ。でもこのお母さんはかなりリベラルで飛んでいるのだが、そこがまた彼には気に入らない。どっちにしろ親子なんてそんなもの。若者は親に反発し親殺しをして巣立たなければならないのだ。それを撮影当時19歳の監督が撮ったのだから説得力があった。彼の作風は、主題をシリアスドラマにはせず、突き放して達観的な笑いで包む。
1年後、彼は新作『Les Amours imaginaires 空想の恋』をもってカンヌに帰ってきた。〈ある視点〉部門での上映は大盛況、既に若手スター監督の地位をゲットした感がある。新作は恋の苦しみを描く。マリーとフランシスは大親友、共犯的な仲良しだ。二人の前にニコラという金髪のイケメンが現れる。マリーもフランシスも彼のとりこになる。フランシスはマリーにニコラを譲って、マリーの恋が成就するよう応援する側にまわるが、内心はニコラに対する恋心で焼きつきそうなのである。この三角関係のてん末をドランは見事にスタイリッシュに撮り上げた。ディテールのアップ、スローモーション、ポップなカラーアート、最初はもうちょっと勘弁してよと思う。が、ここまでスタイルを貫徹されると「OK、彼のフィーリングに乗ってしまおうではないか」という気になった。製作・脚本・監督・出演(フランシス役)・衣裳・編集と一人6役、ドランの映画への情熱はただものではない。
処女作で成功した監督の二作目は難しいというジンクスをクリアーして、次回作は本作の最後に顔を見せるルイ・ガレルとコラボするらしい。 (吉)