「どうしてだれも歩行者信号を守らないの?ちゃんと信号を守っている人なんていないじゃない。どうすればいいの? 私たちもこのまま信号無視すればいいの? でも危ないじゃない。できないわ!」。初めてパリを訪れたらしい日本人旅行者が、交差点でこう言っているのを聞いた時、思わず心の中で「わかる。わかるなぁ」と同意してしまった。そりゃそうだ。子供のころから信号は守りなさいと育てられ、それを忠実に守ってきた日本人にとって、フランスをはじめ他の欧州各国の歩行者の信号マナーは、正にカルチャーショックだ。
左右の安全確認すらせず、赤信号を勇敢に渡っていくツワモノに対し、ホーンひとつ鳴らさず、急ブレーキをかけてまで止まり、どうぞと笑顔で譲るドライバーたち。譲ってもらった歩行者は、軽く会釈してお礼をする人もいるが、「当り前よ」と堂々と渡る人も多い。なんて穏やかなドライバーが多い国民だろうと思いきや、クルマ同士だとちょっとしたことでホーンを鳴らしたり、時には喧嘩してしまう。
このギャップは一体・・・。その理由を、知り合いのアンドレさんに聞いてみた。「簡単には説明できないね。確かに子供のころは、先生に信号を守るように教えられてきたよ。でもここでは、ちゃんと信号を守っている人は逆におかしく見えてしまう。あと車同士だと、どうしても気が荒くなるのは確かだけれど、その理由はなんだろう」
ウ~ン、生粋のフランス人でも分からない問題を、「急造パリジェンヌ」が理解できるわけないか。ともかく、フランスでの歩行者の信号無視はなおりそうもない。自分が運転する側にまわった時に「あの歩行者が突然渡りだしたら」という可能性を常に頭の片隅に置いておくことは、人身事故を避けるためには実に大切なことのようだ。(和)