サニエ嬢はまあ及第点…。”La fille coupee en deux”

 人気のリュディヴィーヌ・サニエであるが、彼女の発見者であるフランソワ・オゾンの映画以外での彼女を良いと思ったことがない。その彼女がまたもや主演を張っているのがクロード・シャブロルの新作にして57本目の監督作品にあたる『La fille coupee en deux ふたつに裂かれた娘』。ヌーヴェルヴァーグの先導者にして今や「職人監督」の第一人者ともいえる同監督。玉石混淆の彼の作品群の中で本作は、シャブロルらしさが満開の作品だ。プロットは定石の三角関係。TVで天気予報のお姉さんをするサニエ嬢とゴンクール賞受賞作家フランソワ・ベルレアンが恋に落ちる。サニエ嬢に熱を上げる大富豪の放蕩息子、ブノワ・マジメルが必死に中に割って入ろうとするが軽くあしらわれる。ここで三つの社会階級が対比されるところがシャブロルらしい。サニエ嬢は、本屋を経営する律儀な母(最近脇役として成長株のマリー・ビュネル)の手一つで育った。決して裕福な環境ではないが、一番まともなモラルがある。実は妻を誰よりも愛しているベルレアンは、文学界・インテリ層特有のシニカルで背徳的な空気の中にどっぷり浸っている人物。一方マジメル君の大ブルジョワ家庭は、タテマエ第一の専制君主的な母(いつも驚くべきパフォーマンスを見せてくれるキャロリーヌ・シロル)の顔色を見ながら育った子供たちの歪んだ性格に破綻の兆しが見られる。ベルレアンに捨てられたサニエに愛の手を差し出すマジメル。表面的にはカップルとして納まる二人だが、やがてホンネが表出し惨劇をよぶ。
 サニエ嬢は今回はまあ及第点だがファム・ファタールをまだ表面的にしか演じられていない。ともあれ、こうした物語を三面記事的に軽く仕上げるところがシャブロルの真髄といえる。(吉)

Francoois Berleand (1952~)

 クロード・シャブロルの待望の新作『La Fille coupee en deux』に出演しているフランソワ・ベルレアン。今や現代フランス映画が放っておかない名オヤジ俳優の筆頭株。ちょっと高圧的で偉そうな反面、神経質で小心者にも見えてしまう、アンビバレントな表情が印象的だ。
 1952年パリ生まれ。BAC取得後は商業学校に入学するが、同時に演劇コースにも登録。26歳で、アラン・キャバリエの映画で端役デビュー。その後は名脇役として地道な活動を続けてきたが、2000年に『Ma petite emtreprise』でセザール最優秀助演男優賞を受賞したことがキャリアの追い風に。代表作に『コーラス』、『L’ Ivresse du pouvoir』、『Je crois que je l’aime』。私生活ではニコール・ガルシアと夫婦生活をともにしていたが2004年に破局している。
 昨年には自伝的小説『Le fils de l’Homme invisible』を出版。父親の言葉から受けた精神的ダメージや家族への複雑な思いを赤裸々に綴っている。「今は人生のいい部分を享受しているけれど、それはある種のシニシズムさ。すべてを笑ってしまいたいよ」。いつも世界を疑い深そうに眺めているような、彼の人間臭い屈折した視線。それは、心理劇に挑み続ける現代フランス映画を、内側から豊かにしてもいるのだ。(瑞)


●Artavazd Pelechian三作品
 ゴダールや批評家のセルジュ・ダネーらが絶賛するも、海外上映の機会が圧倒的に少ないため、謎に包まれたままのアルメニア人映像作家アルタヴァスト・ペレシャン作品が公開される。
 とにかく「絵力」のある映像の洪水。瞬きもせずこちらを見据える子供、国葬と人波、火山の爆発、火花に筋肉、息を切らし走る馬が、モノクロの世界に泥臭い存在感でうごめく『Nous』をはじめ、短編+中編を集めた旧作三作品が一度に鑑賞できる。ドキュメンタリー? アート映画? カテゴリー分けはいらない。偉大で滑稽な歴史と個人。そして旋律のように繰り返されるイメージを、音楽のように味わおう。(瑞)


 

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