『De particulier a particulier』といえば、フランスで住まいを探したことがある人にとっては、不動産屋抜きで個人対個人で不動産のやりとりする情報誌としてお馴染みだ。でもこれは新人監督、ブリス・コーヴァンの映画のタイトル。ちょっと不思議な映画だ。
エレーヌ・フィリエールとローラン・リュカが演じる夫婦の危機。この仲のよい夫婦の危機はひょんなことから訪れる。ヴェネチア旅行に出かける前に駅の待合室で隣り合わせたアラブ系のオジサンが(故意に?)置き忘れたバッグ。これを拾った時から二人の妄想が始まる。結局ヴェネチアには行かなかった二人なのだが(といってもこの部分は省略形で画面上では曖昧に処理されている)、周囲の友達や親には行ったことにしてしまう。「なぜ行ったって言ったの?」と相手を非難しているうちに現像から上がってきた写真にヴェネチアが写っているではないか? 本当は自分たちはヴェネチアに行ったんじゃないか? それとも幻覚に襲われているのか? 不安が二人をさいなむ…。この作品を観ながら、諏訪敦彦監督の『Un couple parfait』のことを考えた。どちらもカップルっていったい何なんだ? ということをテーマにしている。人類の成人の(多分)80%はカップルになって人生を営んでいる。相手と自分、二人いるのに一つの単体であるような錯覚の中で生きている二人が(世の中には錯覚ではなく本当に合体して一つになってしまっているカップルもいると思うが)、ふと不協和音を聞いた時に何が起きるか? 諏訪監督はとっても現実的な不協和音の増長をみせたが、コーヴァン監督は謎めいたメタファーでそれをみせる。テーマへのアプローチの仕方一つでこんな違った映画が生まれるところが面白い。(吉)