クレール・ドゥニの『L’Intrus/侵入者』は、実際に心臓移植を受けた小説家・哲学者ジャン=リュック・ナンシーの同名小説からインスピレーションを得た作品。ゴダールの『小さな兵隊』に主演したミシェル・シュボールの70歳の肉体と、それを撮るアニエス・ゴダールのカメラが強いインパクトで我々の目を釘付けにするが、作品評価は真っ二つ。 普通に物語を追っかけていると訳が分からなくなる。「気持ち」や「思い」を描いた詩のような映画だと思って観るべきなのだ。が、映画はストーリーで観るものだというのが身に染みついて離れない人にとっては大混乱が待っている。あとは、この詩が好きか嫌いかという問題も残るが、ストーリーだけが映画じゃないという認識と感性も養いたい。 でもやっぱり物語派にはパトリック・ブシテー監督『Imposture/ぺてん』。文学部の教授が女子学生の書いた「傑作」を頂戴して文壇に華やかなデビューを飾るが、さて実際の著者は…? とミステリー仕立ての物語が展開する。女子学生を演じる新人、レティシア・シャルドネの好演もあってストーリーを追って行く分には面白いのだが、もうひとつ食い足りないのは、まさに映画にポエジーが欠けているから。パトリック・ブシテーは、クロード・ミレール『一番うまい歩き方』(76)やエティエンヌ・シャティリエーズ『人生は長く静かな河』(88)で一世を風靡するキャラクターを演じたあと、91年にチャールズ・ブコウスキーの世界を見事に映画化した『つめたく冷えた月』で監督デビュー。あの映画にはポエジーがあったのに…。 ドゥニの確信犯(?)ぶりは見事で、映画に風格がある。ブシテーの方はほどほど感覚が映画を俗っぽくしてる。(吉) |
|