気心の知れた俳優と故郷マルセイユにこだわり続けてきたロベール・ゲディギャン監督。新作で国の最高権力者に迫るとは、誰が予想できたろう。映画は史実を追うことより、大統領と伝記を執筆する若いジャーナリストとの、つかず離れずの関係を静かに見据える。従来のゲディギャン的な南仏の青が一転。映画中、大統領がフランスの色と呼ぶ「灰色」の霧のようなものが、スクリーンに淡く立ち込めている。「本作がミッテランについてのフィクションなら、ミシェル・ブーケの芸術の記録でもある」とは監督の弁。なるほど名優ブーケは、ミッテランというより、政治家というフェイクそのものを体現しみごと。観賞後、本物のミッテランの顔が思い出せなくなる恐れも。(瑞)
●Voyage scolaire
ポーランドの海辺で移動教室を過ごすベルリンの高校生たち…。グループの中では嫌われ者で目立たない青年を主人公に、集団生活を送る高校生たちの「退屈」をゆっくりと映し出す。このヘナー・ウィンクラーの初長編と、同時に3月9日に公開される他の2編、ヤン・クルーガー監督『En route』、アンジェラ・シャヌレク監督『Marseille』には、ドイツ映画の新しい潮流が見られる。それは、全世界で大ヒットした『Goodbye Lenin』のような大衆向け作品ではなく、作家各々の作風を重視しようという、近年のドイツ映画にはまれだった動きだ。いずれにせよ『Voyage scolaire』と『En route』は、新しい作家の発見、という点で特筆に値する。(海)
●Les Consequences de l’amour
8年間のホテル住まい。今日もバーのいつもの席に腰掛けるこの陰気な男の正体は? 映画の中盤に明かされる驚愕の事実。そして観客は、突如加速する彼の非情な運命を見届けることに。物語の前半は秘密を、後半は危険をはらむことで、全編緊張の糸が張りつめる。その糸が緩むのは、美しい感傷的なラストの数秒のみ。監督はポオロ・ソレンティーノ。昨年度カンヌ映画祭で唯一のイタリア産コンペ作品。(瑞)
●Mon beau-pere, mes parents et moi
2000年にヒットした『ミート・ザ・ペアレンツ』の続編は、R.デ・ニーロ、B.スティラーに加え、D.ホフマン、B.ストライザンドが出演、という超スーパーキャストが売り物。絶好調のホフマン&ストライザンドのカップルの演技には抱腹絶倒するけれど、その陰でデ・ニーロもスティラーも輝きを失っている。前編の栄光を引きずる続編の運命と片付けるか、それとも監督ジェイ・ローチの力量不足か?(海)
Jalil Lespert
『Le Promeneur du Champ de Mars』で、大統領のオーラを前に、惑いながらも静かに立ち向かうジャーナリストを演じているのがジャリル・レスペール。名優ミシェル・ブーケに、「人の話を聞くことの意味を知る俳優」と称される。チャーミングなゴリラ顔が愛嬌の若手実力派だ。
1976年パリ生まれ。舞台俳優である父のオーディションに付き添ったのがデビューのきっかけ。「学校では詩の暗誦が地獄だった。俳優になるなど夢にも思っていなかった」。だが運命の悪戯か、結局親子で映画に出演。この作品は、後に彼がブレイクするきっかけとなる『Ressources Humaines ヒューマンリソース』の監督、ローラン・カンテの短編だった。その後、弁護士である母の意志に背き、法律の道を捨て映画界に進む決意をする。2000年、会社と父親との板挟みに悩む若者に扮した『Ressources Humaines』で、セザール最優秀新人賞を受賞。授賞式で、「パパが自慢に思ってくれたらうれしいな」と、はにかんだ姿が初々しかった。その後も、ブノワ・ジャコの『Sade』、ジャン・ピエール・シナピの『Vivre me tue』、アラン・レネの『Par sur la bouche』など、質の高い作品にコンスタントに登場。演じる作品も役柄も幅広いのが強み。息の長い名優になりそうな予感がする。(瑞)
