立派な作品だけれど…”Vera Drake”

 マイク・リー監督『 Vera Drake 』は、2004年度ヴェネチア映画祭で最高賞の金獅子賞と、主演女優賞をW受賞した。非の打ちどころのない立派な作品だ。
 1950年のロンドン。まずは、清く貧しく美しく生きるヴェラ・ドレイクの日常が描かれる。夫は自動車工、息子は仕立て屋、娘は女工、ヴェラは家政婦をしている。気の良いヴェラは、働き者で周囲を気遣い、不平不満を抱くことは決してなく、鼻歌を口ずさみながら常に機嫌良く働いている。ブスな娘に結婚相手をみつけ、一家は慎ましやかな幸福感に包まれる。つまり彼女は一家の太陽。そんなヴェラの意外な行為が、映画の中盤から物語の中に侵入して来る。彼女は「人助けのために」非合法の堕胎を実施していたのだ。彼女の感覚では単なるボランティア活動。金も貰わずに(あまりにお人好しの彼女は、仲介の旧友に騙されていたのであるが)途方に暮れる若い女性に援助の手をさしのべていただけ。が、ある日、彼女の施しを受けた女性の一人が病院に担ぎ込まれ、ヴェラはしょっぴかれる。何も知らなかった家族の反応…。
 善人の犯す罪。21世紀になって未だ論議の対象である妊娠中絶の問題。等、多くの深刻なテーマを内在したドラマだ。英国の俳優層の厚さは今さら驚くことでもないが、今回もイメルダ・スタウトン(米アカデミー賞主演女優賞にもノミネート)をはじめ、まあよくもこんな顔つきこんな体型の、そして演技がやたらに巧い俳優を集めたものだと感心する。演技も演出構成も、すべてがリアリズムのお手本のような映画だ。だからツマラナイ。優秀映画鑑賞会のお墨付きもいいが、ヴェネチアが金獅子賞をあげてはいけない。と(吉)は思う。ドラマ的な面白さはあっても、映画としての創造性に欠くから。(吉)

●The Edukators
 冷蔵庫で冷えた写真、高く高く積み上げられた椅子…。ヤンとピーターは21世紀の怒れる若者 “The Edukators”。夜な夜な富豪宅に忍び込み、家具の配置を変えメッセージを残すという政治的パフォーマンスを繰り広げている。そこに多額の借金を背負ったピーターの彼女ユールが加わり、一つ屋根の下で暮らしだす。ある晩、彼らはちょっとした手違いから、富豪の男を誘拐するはめに陥るのだが。
 本作で、自身の体験から貧富の格差拡大の問題を告発してみせたのは、ドイツ人監督ハンス・ワインガルトナー。世界の悪は何なのか簡単には答えが出せない。監督もまた単純な回答で満足したりはしない。それは誘拐した相手の男が、元68年世代の活動家だったという皮肉にも生きている。ただし男2×女1の瑞々しく描かれた三角関係は、本作が社会派映画の範疇に収められることを、はっきりと拒否する。(瑞)