Carpaccio de coquille Saint-Jacques
最近、レストランでもメニューに見かけることが多くなってきたのが帆立貝のカルパッチオ。グラタンやソテーにした帆立貝以上に、その繊細な甘い味を楽しむことができる一品だ。
4人分だったら少なくとも2キロは必要で、15ユーロ前後かかってしまうけれど、新年だから、と思い切ってのぜいたくです。しっかりと殻が閉じているものを選ぶことが大切だ。いったん殻を開けてしまうとどんどん活きが悪くなっていくので、調理の直前に魚屋に買いに行くか、持って帰って自分でこじ開けるのがいちばんだ。
ヒモやオレンジ色の舌を取りのぞいた柱を冷水で洗い、ふきんで丁寧にぬぐう。これを20分ほど冷蔵庫に入れて冷やしておく。盛り付ける皿も冷たくしておきたい。
この間にソースの準備をしよう。ボールに、オリーブ油あるいはクルミ油を大さじ4杯、レモン半個の搾り汁をとる。ライムを使えばさらに香りがよくなるだろう。塩、そしてコショウも挽き入れ、泡立て器で勢いよく混ぜ合わせてとろりとさせる。シブレットは細かく切っておく。
帆立貝の柱を冷蔵庫から取り出し、研いで切れ味を鋭くしておいた薄刃の包丁で、できるだけ薄く輪切りにしていく。これを皿に花びらのごとく盛り付けていく。その上に刷毛を使ってソースを薄く塗ってから、もう一度冷蔵庫に戻して、少なくとも30分ほど置いておきたい。
食べる直前に冷蔵庫からとり出し、シブレットを散らし、レモンあるいはライムを添えて食卓に。ボクはソースの塩味を薄めにしておいて、塩の華も添えることにしている。シブレットのかわりに、サケのマリネなどと相性がいいアネットを散らしても面白い。
ワインはせっかくのごちそうなんだから、辛口でいながらまろやかなマコンの白はどうだろう。(真)
帆立貝2キロ、オリーブ油あるいはクルミ油大さじ4杯、レモンあるいはライム半個、シブレット、塩、コショウ
●coquille Saint-Jacques
キリスト教三大巡礼地の一つサンチアゴ・デ・コンポステラ(フランス語でSaint-Jacques de Compostelle)があるスペイン北西部、ガリシア地方の海岸では帆立貝がよく獲れたことから、帆立貝のモチーフがシンボルとして、巡礼道の道標に使われたり、巡礼者たちの身につけられたりしていた。そこから、帆立貝はcoquille Saint-Jacquesと呼ばれるようになったとのこと。フランスの帆立貝は養殖ではなく、ノルマンディー地方の砂地の海岸で捕獲される天然もので、ほのかな甘さがあって美味。9センチ以下は捕獲禁止になり、監視も厳しいが、やはり乱獲がたたってか大ぶりの帆立貝が少なくなった。貝柱はnoix、舌はcorail、ヒモはbarbeという。フランス人は、グラタンの場合は舌も使うことが多いが、ヒモはせいぜいダシをとるのに使うくらいだ。これを甘辛く煮付けると、こりこりとごきげんな酒のさかなになる。殻もきれいに洗ってから乾かして保存しておくといい。高級食材の帆立貝でなくとも、白身の魚、エビ、ムール貝などを入れておいしいグラタンを作ることができる。
●帆立貝のグラタン
濃いめのベシャメルを作り、そこへ粉チーズを加えてねばねばっとしたソース・モルネーを用意しておく。帆立の柱と舌を30秒ほど白ワインで蒸し煮したら、柱は四つほどに輪切り、舌は二つに割る。帆立貝のくぼんでいる方の殻にソースを敷き、柱と舌を並べる。さらにソースでおおい、粉チーズをふり、ナツメグをおろしかけ、目盛り220度くらいに合わせて熱くしておいたオーブンに入れ、表面に焼き色が付いたらできあがり。とにかく強火でさっと焼かないと身が固くなってしまう。好みではマッシュルームを加えてもおいしい。やはりワインはムスカデのような辛口の白がいい。
●aneth
クリスマスから新年にかけて八百屋で見かけることが多い香草がアネット(ディル)。新約聖書のマタイ伝にも出てくるくらいに古くから使われ、古代ローマでは生命のシンボルだったという。ウイキョウやアニスの親戚で、そのスッと鼻に抜けるような独特の匂いは、川魚料理や羊料理などの味を引き立ててくれる。北欧の人たちが愛する香草で、細かく刻んでサラダやスープに加えたり、ヨーグルトや生クリームと和えてソースにしたり、サケのマリネに入れたりする。ニジマスの腹に詰めて包み焼き、もうまい。(真)